佐仲ダム堤体下のキャンプ場は今日もそれなりに賑わっている。ダム湖の釣堀のテントは1つ。獲物はワカサギだが、ワカサギ釣りには温か過ぎる。諏訪湖では、釣った魚は忽ち冷凍、釣る方も冷凍の恐れがあった。それを思えば今はもう春。香気を放つ梅の花は満開で、やや冷たい風の吹く多紀アルプスの気温は3℃。
ダム奥の登山口に車を止め、先ずは峠目指して水の流れる舗装路を歩く。今年は未だ春の妖精を観ていない。今頃行ってもセツブンソウに花は無い。雪割イチゲなら咲いてもいよう。帰りに寄って見るのも一興か。静かでやや暗い峠道には真っ赤なヤブツバキの花が一輪二輪、少ないながらも賑やかで良い。昨年の爆発的な結実で体力を消耗したのか、今年の花はどうも少ない。大いなる異変の前兆でなければよいが。
お地蔵様が見えると佐仲峠、春日方面にも足を運び、嘗ては茶店があったかもしれない山陰で小休止。日差しがない。小休止の後は、かなり厳しい傾斜を三尾山目指して登る。振り向けば、黒頭峰と城跡の残る夏栗山が並び、冬枯れの今しか見えない景色だ。何もこんなにキツい道じゃなくても、と思うほどの斜面を登るとヒカゲツツジは満開であった、としたかったのだが見事に外れ。硬い蕾の中には来週辺りに咲きそうなものも混じり、だけども今日じゃなかった。
代わって現れたのは、年の頃は4〜50代、息を切らせて走る男性であった。勢いよく挨拶の後、岩尾根の彼方に消えて行った。あちこちの木に見えるのは「走る栄養研究所」の蛍光シール、ここでもトレランの大会があったらしい。さて、では三尾山城址を拝見しよう、岩の上から見下ろす高速道路と春日の街は細やかな楽しみである。しかし、伐採直後は良かった見晴らしが良くない。伸びる藪に合わせた伐採計画が欲しい。それにしても、こんな岩尾根のピークによく城なんか作ったものだ。往時の情熱に敬意を表し、尾根歩きに戻るとしよう。
北側はほぼ崖状で、それも岩尾根を好んで着生するヒカゲツツジは変わっている。少々手を抜いたくらいで、他の植物に負けるようなところではなし、これは寧ろ厳しさへの挑戦と見るべきだろう。生物らしい生物である。さて、こちらも北風の吹く寒い筈の尾根上のアップダウン、標高こそは低いながらも日本アルプスを歩く積りで巻道を見ながら高みを目指し、けっこう疲れて降った鏡峠で小休止。直ぐ北には、幕末に、夷狄を払う目的で置かれた毘沙門天があったはずだ。
ところが未だ、この重要なルートを降った事が無い。生い茂る夏草に負け、追い払われた事は一度だけある。今日のところ夏草はなし、これはチャンス、行ってみよう、と降りながらも不安はある。何分にも痩せた岩山の事、大丈夫かな?。結論から云えば、既に道ではないが、今の時期なら辿れなくはないルートであった。降った道脇に、出雲族東進の重要なルートであった云々、と刻んだ碑があった。満開の梅の花の香気漂う場所であった。ここには嘗て、茶店があった。
ふと見た道脇の枝先に、一見、剥製に見える鷹がいた。こんなによく見た事はないので、剥製だと思ったのも無理からぬ事だ。近付いた途端、剥製が舞い上がった。そこへ、近くの林のカラスが迎撃態勢、もつれながら、遠くの空へ飛んで行った。あれはチュウヒだった。 |