昨日に較べて、今日は温かくはなった、身体に残った寒気の名残の影響で、ピクニック程度が丁度良い。車窓から見える越畑の田圃には、何時しか水が入るまでに耕されて、後は田植えを待つばかりに見えた。集落の小道を歩くと、石垣の間から、随分大きくなったフキノトウと背の未だ低いフキが綺麗に並んでいる。
傍には白っぽく色あせたヤエザクラと、花が咲き始めたばかりのシャクナゲが鮮やかである。芦見川から続く水路に沿い、集落裏の植林地に入ると未だ風が冷たい。峠に続く林道には、今日のものである足跡が多めにある。林道が狭まると、細いながら落葉樹が多くなる。タカノツメの芽はまだ出始めたばかりで、小指ほどのサイズしかない。コシアブラに至っては、殆ど芽吹いたばかりと同様である。
峠には、既に地蔵山から下ってきたのか二人のカップルが陽だまりの中にいる。ワラビでも収穫しているような声が漏れるのだが、イワヒメワラビの群落の中では食用に適したものは難しいに違いない。峠から地蔵山に向かったばかりの伐採地に、食用のワラビが数本あった。タカノツメの多い林を過ぎ、コシアブラの林が近づいても新芽はさっぱり。てんぷらは当分お預けとなった。
ミッションコーラの看板を付けた壊れた山小屋を過ぎ、再び明るくなった森には新芽も殆どない。少しく流れる汗で風邪で痛む節々が大分楽になった。アセビの林に差し掛かり、林床から跳ね返る気持ちの良い陽射しを辿るうちに、咲いたばかりの俯いた花。反射板跡のお地蔵さんにご挨拶をして直ぐ横の数本の花、これは神仏のご加護である。
ピーク前には、地図を広げて思案顔のご婦人が二人。一旦下って次の反射板まで歩くと、やっぱりそこにも数名の登山者がいた。滝谷から上がって来られた様子で、さかんに暑い暑いといっておられる。ここを過ぎても登山者と遭遇することは絶えず、愛宕山への資材搬入路を越えて竜ヶ岳道に入ると、どうも先には団体さんの気配があった。
暫し休んで、笹の消えた明るい広場で、嘗てのスキー場を見下ろした。するとそこにも十数名の団体さんが、鹿そこのけの気迫で枯れた竹原を登ってくる。今日は鹿の姿どころか、鳴き声一つ聞いていない。滝谷源頭から子尾根を越えて、少しばかりショートカット。アセビの茂る登山道を目指して這い登ると、あそこにもここにも、休息中の中隊規模の団体さんの休息地であった。ごめんなさい、とシートの間を縫って登山道まで辿りつき、振り返ってみたが、何の反応もない。
それからは竜ヶ岳の山頂まで、戻る伯母さま方に絶えず激励されながら、やっと山頂を踏んだのである。京都市内への展望は、霞は少しあったものの、まずまず良好といえるだろう。あれだけの人数では狭い山頂は直ぐに溢れてしまう。追われるように山頂を辞し、北側から芦見川に下降した。湿り気があり肌寒く、第一に傾斜がキツイ。
芦見川は増水して流れが早い。時に何処を渡ろうかと思案するのも、ひとえに水漏れのある左の靴の故である。大分下った処で渡りの途中だろう小鳥の団体さんと遭遇した。水浴びをしたり日光浴をしたりと様々である。今日は団体さんとよく遭う日であった。そんな鳥の観察中、芦見谷林道方面から単独男性がやってきた。地蔵山を越え峠を越え、林道を歩いてやっとここまできたらしい。
古道の話が好きらしく、単独はどうも寂しくっていけない、ことに熊が怖いのだ、そうだ。男性を見送って林道に出ると、いつか春の日も翳りはじめ、谷底には深い影だけが多くなった、そこはまた風も冷たい。崩れた林道脇にイチリンソウの花が数株、今年は初めてお目にかかる。
峠まで上り返して越畑集落に下った。集落には未だ陽射しも残り、風の無い、古い石垣の傍は温かい。
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