■ 両白山地・別山
・・・・2025年07月12日
2025.7.14

楽してお山に登りたい訳では無い。限り有る元気は有効に使いたいと思えばこそ、無駄な消耗を極力抑える手段として送迎バスを使う。別当出合の標高まで、チブリ尾根を登った場合を想像するに、この暑さでは恐らく小屋止まり。バスに揺られたお蔭で南竜までの途が拓けた。南竜からは大屏風を経て別山へも可能な事は昨年実験済。今日は改めて再挑戦である。なにしろ前回見たものといえば、崩壊地の片隅に、雨と流れるガスの中に浮かんだ池塘のみ。

バスを降りた方々の多くは、谷に掛かる吊橋を渡って砂防新道を登る。もっともポピュラーなルートであろうと思うのだが、降って来られる方々もやはり多くて途絶える事が無い。子供を含む文字通りの老若男女が行交う道である。そんな道ではあるが、やはり登りの身体に暑さは大敵。お友達らしき初老の男性三人のお顔は水のカーテン、吐く言葉こそは意気軒昂、随所にお休みを挟むから言葉ほどは捗捗しく無い。久しぶりに重いザックを担ぐ当方とは抜きつ抜かれつの仲である。

一見すると、幌馬車強盗を想起させる黒マスクのお若い女性軍は苦しげな様子。西部劇では馬に跨る方々であるから、徒歩で日本の夏山では無理も無い。見ていると、何の苦も無く登る子供は親より元気が良い。皆様の目指す室堂平周辺には未だ残雪が見える。上を目指す方々とはここで別れて急斜面の山腹の途を南竜ヶ馬場へ。途端に人影は絶え、斜面のあちこちにニッコウキスゲが咲き乱れる。テント場などが見えてくる辺りはハクサンコザクラがお出迎えだ。お花は良いが、いたるところに残る雪渓は剣呑、テント場に至る橋は未だに雪の下であった。

さて、賑やかなテント場の一夜は空けて時刻は6時、湿原に咲くお花はチングルマ、何度か見たものは毛深いものばかりで、大量のうぶ毛の花は滅多に無い。いきなり良いものを見せて貰って意気揚々、谷に降るルートでこれまたいきなり雪渓に出た。先行する若者はアイゼン、こちらはストックとビブラムソール。問題無く谷源頭部に降り、油坂の頭への厳しい登坂ルート。ここでも雪渓を歩いて山頂直下、東に延びる枝尾根のガレは圧巻であった。切れ落ちる僅かな岩場に朝日を浴びたニッコウキスゲが揺れる。

大屏風の所以は大量の雪によるものか、崩壊の進む枝尾根は須らく東側だ。そんな尾根のところどころに池塘がある。雪の残る池塘の周囲は花園である。故に踏込む事が憚られる。そんな細尾根が続くと流石に花園にも飽きて来た。御舎利山が覗く辺りは細尾根から一転、重量感溢れるお山らしい景色。闊達な山腹にハイカーの姿も多い。当然ながら山腹道は登り基調で陽光は暑い。ただ通過する雪渓は勿体ない。尾根まで上がると西の風には冷気があってホッと一息。念願の別山の頭を踏んでエネルギー補給、途端に南から攻寄る雲は別山平への眺望を奪った。白山はあんなに良く見えているのに、一筋縄ではいかないのだ。

最後はやはり、長くて暑いチブリ尾根の降りである。激斜面を登って来られる方々が三々五々、溶けてしまいそうな様子で無言。山のあなたの空遠くは、到達不能な遠い世界。もうこの尾根歩きはおしまいにしようかな。


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