■ 京都北山・芦生 櫃倉谷〜上谷・下谷
・・・・2010年04月10日
2010.4.12

やっと暖かな春になった。早春の、と表現するには遅すぎる時候になったが、木の芽が膨らみ、林床に陽差の溢れる頃合の風情はまた格別。まだ桜も蕾の須後の駐車場、用意をする間に車が二台、芦生協奏曲も大分落ち着いてきたのか人が少ない。

川面の照り返しにも随分暖かな気を感じる。林道傍には白いミヤマカタバミの花が溢れ、久しぶりに花を見たようだ。ショウジョウバカマは既に花が散ったものが多い。

スミレの類も今を盛りだ。会う人も無く内杉谷出会い、舗装路を離れて、驚いたカナヘビがカサコソ立てる音に、久しぶりに驚きながら、やっと道の終わりである。

川を渉り、多少汗を伴う踏み跡を横山峠まで、峠には、約束であるイワウチワの淡い五弁の花が咲き始めたところである。一見、地衣類に似たこの植物のつける見事な花には何時もの事ながら感嘆せざるを得ない。どこにこのような力があるのやら。

中の壺に降り立つと、中年の男性が釣り竿を出している。記憶違いでなければここは禁猟区の筈。 通り抜ける際にチラと見たその顔は、意思的な顔とは程遠い、従って釣り師とはかなり異なる繊弱なものに思えた。

見つめる川面には、流れる釣り糸があったが、恐らく、そう上手な方ではあるまい。徒渉を繰り返しながらも高度はそれほども変わらない。大きな滝は一つだけ、陽差のたっぷり溢れた緩い流れを歩く。

カタバミの花を除くと、他に花らしいものが少ない。足元のニリンソウにも未だ花がない。滝の巻き道を越えると、垂直に近い岩場になにやら白い花がある。どうやらワサビに違いない、人の手の届かぬところで、やっと安心を得ているものらしい。してみると、人がいない頃ならば、この辺りにはワサビが群れていたのだろう。

滝の後、小さなゴルジュの縁を歩いて、あとはいよいよ源流部のゆったりした光景の中を歩く。気温は相当に上昇し、谷の中でも暑いくらいになった。足元に、まことに小さなサンインシロガネソウの花があった。良く見ると、小さな株ではあるが、辺りに更に数株発見した。ネコノメソウと見まがうほどの花である。

これまでのゆったりした歩きはここで激変する。杉尾坂に登るには、目の前の急斜面を登る必要がある。踏み跡らしいくの字と露出した木の根があるにはあるが、それにしてもこれは酷いところを登る。やっとこさ上り詰めると林道に出る。林道にはまだバスの轍がない、従ってとても静かな林の中の林道である。

冬季のツアー閉鎖の御蔭で、上谷の歩道も幾らかは歩きやすい。再開と同時に泥濘に変わるだろうが、その為か、上谷の流れには泥が多くて清流とは呼べない。変わった谷名を横に見ながら野田畑湿原、ここに谷名がないのは意図したものか、湿原の中には、沢山の機材が運び込まれていた。湿った遊歩道に残る踏み跡からみて5〜6名の研究者諸君の業である。

三国峠出会い傍に車が二台、作業小屋はひっそりとして誰の姿も無い。暫くテント場で休息の後、下谷へ向かった。下谷への道は登っている。長々と緩い勾配で登るのである、上谷よりは相当高所であると思われるのに、下谷という。不思議な事だ。葉を落とした大カツラは、それほどの迫力を伴はない。寧ろ力なく、申し訳程度に立っているとしか思われない。

勾配が少しきつくなったところに大きな滝がある。「ノリコの滝」と地図にあった。岡山でも幽谷の中に「お夏の墓」なる物を見た。妙な名前は妙な連想を促し、果ては幽霊・妖怪の類にまで発展するのである。ケヤキ坂峠からは、内杉谷を見ながら、うねうね続く道を下るだけ、イワウチハの群落が延々と続く。

幽谷橋を渡ったところで研究者諸君の車が追い越した。徒歩では後一時間も歩くだろう。傍には少し早かろうイカリソウが、夕暮れの少ない光の中に咲いていた。朝、蕾であった須後の桜は、ちらほら花びらが見え出した。


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