■ 中央アルプス・木曽駒ケ岳
・・・・2024年08月04日
2024.8.5

紫雲のたなびく黄昏時、昼の熱気冷めやらぬ街路を埋める賑やかな声、辺りを漆黒の闇が覆う頃には竜さえ踊りに興じる様子。仕舞に夜空に大輪の花が舞い、またたく星の一つだに見えない空ながら、きっと明日は吉日に違いない。竜の出現は全くの吉兆、飛車が成ったら「竜」になるのは将棋の話、明日は将棋の頭へ登る予定だ。

桂木場に止まる車は10台程度、気象庁の降雨予想の効果である。が、前夜の吉兆を胸に秘めた足取りは軽いのだ、と思いたいところであるが、予想に反して厳しい登りだ。幽谷を埋める霧の中は暑かった。いつもの様に助けを求める花と云えば、道脇にひっそり咲いたホトトギスくらい。後続の鈴の音が追い上げて来て、どうぞお先に行ってください。アベックの歩みはとても軽くて、とても太刀打ちできるものではない。次は、見た目に相当応えているらしいソロの男性、カラマツの林に続く九十九折れの笹薮を辿る間に、いつしか鈴の音も消えてしまった。

標高も2000を超えると尾根に乗り、涼やかな風は15度である。シャリばて加減の体へは細やかな補給が必要だ。カラマツの林はダケカンバとシラビソに代わり、右の空には木曽の盟主・御岳がお迎えの予定であったが手筈違い。御岳の中腹から上は濃い雲に覆われ、どうも不自由そうに見えて仕方ない。長い尾根道の中間にあるのが大樽小屋、心地よさげな長椅子などが空いているから、これは如何しても座るのが定め。座ってしまえば一服などしたくなるのが人の常である。

一服も終わる頃に、中学生位の娘さんを連れたお父さんの到着。ではお先にと腰を上げ、核心部である胸突き八丁、「胸の付く程」なら理解も出来る、胸を突くほどもあるまいに、なぜに「胸突き」なのか解し難い。半ばに達した辺りでお二人に抜かれるのは運命である。それにしても娘さんの歩みの軽い事、お父さんは木の杖に縋ってとにかく着いていくのが戦法らしい。

エネルギー枯渇もピークに達する頃、木曽駒の覗くハイマツの尾根に辿り着き、息を吹き返した次第である。命脈を繋いだからには先ずはエネルギー補給、ライチョウの1羽でも2羽でも、ありったけやって来ても当方は歓迎であった。休息の間に現れたものは、颯爽と梢にとまるホシガラスが2・3羽、同じ個体であってもカウンターは上がるのみ。

エネルギー補給も終わり、将棋頭山への岩尾根目指して上る最中、不思議と力が漲るではないか。ひょっとすると、登りでいつもばてるのは、シャリばてだった、のだろうか?。直ぐ後ろから来られた単独の女性は、直ぐ目の前のピークに向かって5歩あるいては反省のポーズ、少し下方の辺りでライチョウが鳴いた。白花のリンドウは初めて見た。トウヤクリンドウという高山のリンドウらしい。

将棋の頭を過ぎ、目指すは駒ケ岳ピーク、ところがハイマツに続く白いルートは降っている。最短で尾根を行くものだと思っていたから不本意である。加えて風の無い南側稜線は暑かった。30度を超えるルートにハイカーの姿はまるで無い。真っ赤な顔で登って来るのはライチョウ保護の監視員だ。降ったルートを登り返し、山荘前はまるでゴビ砂漠、コマクサは暑さに喘いでいた。監視員にライチョウの話を聞くと、付近のヒナは姿が消えたらしい。確実に上昇する猿の縄張りの結果である。

帰りは山荘前から巻路を辿り、雨に備えて雨傘を出す。後方で、着かず離れず鈴を鳴らした方は何方であったか不思議である。行程ではなかった雨、駐車地の車を大いに汚して去った後であった。


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