前日雨を降らせた低気圧は東に去り、前線は本州をやや南下した位置で停滞している。日中一杯本格的な雨は無い。三草山なら少々の雨でも問題無い。
三草山の駐車場はほぼ満車、奥の方に止めると同時に水上バイクを積載した車がお隣だ。今年もやはり、夏場の池の活用は水上バイクで決まりらしい。駐車場のハイカーを目の当たりにして、池を損ない静かな環境を損なってなお水上バイク。
雨どころか、薄雲の空から覗く陽射しは暑い。灌木の中の岩場に続く尾根道に影を宿せる場所は無い。応援のお花は少なく、ときに見るトンボソウなどには色気が無い。入れ代わりで、降って来られる方々のお顔は概ねスッキリ、老廃物を落とした後のお顔である。風はまだ冷気を妊み、希少なウバメガシの木陰などは去り難い。先行するお二人の女性は日溜りで休憩。
大分歩いて、北側の大坂山などの山並みをみると釣り尾根の形が良い。見晴らしの良い高みから眺める尾根上の人影は二つ三つ、立ち止まると滲み出る汗は顎から落ちる。大汗かいて三草山ピーク、山頂フラッグのウバメガシの木陰の下は空いている。背後に白いオカトラノオが咲く。先週はユリ姫様の饗応を受けた。今日はまだユリの花は見ていない。
一服もしたいし、山頂を辞して周回コースへ移動、ところがここにも人影は多く、日本の喫煙者は大変だ。急斜面を降って、登り返すと風の抜ける尾根に出る。この先はイシモチソウの咲く辺り。イシモチソウはモウセンゴケ科の食虫植物、しかし人を食おうと言う事ではないから妖怪の類では無い。その触手は、ちょっと見ると禍々しい、が花は5弁の白い花だ。山腹の滲み出る水を頼りに貧しい土壌に逞しく育つ希少植物。
花が無いと、林床のシダ等に紛れてしまって容易に見つからない。そもそも、花が終わると実を着けた後姿を隠す。今が今年最後のチャンスなのだ。イシモチソウは見るものの花は無い。花を探して三千里、もないので500m、藪の気配に振り向くと、イシモチ姫が招いておられる。途端に、辺りを覆ったエンジン音は止み静寂が戻り、咲いたお花はたった一輪。
無事に撮影会を終え、昭和池のほとりを歩いて管理棟の前。ふと見あげた高みに咲くユリ一輪。草生す土手に目をやると、カキ色も鮮やかなカキランが咲く。これはまたイシモチ姫のなせる御業かユリ姫様か、何れにしても有り難い。梅雨の中、雨も無く緩やかな陽射しの中の事である。 |