■ 北摂・猪名川源流の囁き
・・・・2010年02月28日
2010.3.1

9時頃まで降り続いた雨、猪名川源流域の低い山々の上には、蓋をするような低い、厚い雲に覆われて暗い。猪名川の温泉場に車を止めて歩き出した道からも、如何にも冬枯れた様子の藪山が見渡せる。気温は3度、雪は無くてもようするに冬の最中である。時々車の走る、なんと形容したら良いか言葉に窮するほどゴミの多い路を峠まで歩くと「泉郷」と記した碑文があった。

碑文のとおり、彼方此方に湧き水のある斜面をうねうねと下ると篭坊である。風が抜けて寒い道を上流に向け歩いた。畑には春を待ちわびるお年寄りが一人、昨日からの雨を集めて、ごうごうと流れる川面を隔てた山の斜面の下の畑である。小さな雨粒が時々空から落ちてくる。そんな折りに聞こえてきた、まことに小さな囁きを黙殺することが出来ない。

消え入るような囁きは、車の通る直ぐ脇、急斜面の下の僅かな隙間に積もった枯れ葉の下方からであった。そこには顔を出したばかりのフキノトウ、キク科・フキ属の春一番のミッションを受け持つ、鋭角的な黄緑色の芽が顔を出したところであった。直ぐ傍を、斜面から噴出した靴を濡らすくらいの流れが出来ていた。時折通る車の轍が、流れを一瞬跳ね飛ばして去っていく。

声の主はフキノトウである。ぶつぶつぶつ、唱えるようにも聞こえてくるのである。強い風に煽られでもしたら、忽ち掻き消えてしまうほどの小さな呟きである。

「きのうからの雨は酷かった、また上から大きなゴミが流れてきて、ミズナラの根っこあたりにひっかっかた。この身も何れは流されるか、人に踏まれるか、車に八つ裂きにされるか、あ〜それにしても何もこんなところに顔を出さなくても良さそうなものなのだ。

また車が通る。花が咲くまで永らえたとしても、仲間の姿は何処にあるのだろう。見渡したところ一人ではないか、中には人の投げるゴミに埋もれて顔を出せないものもある、何しろゴミは日ごとに増えるのだからな〜。あ、また車が来た・・どうやら無事に済んだらしい、今度はハイカーらしいのが二人来た・・・

温かくなるとここにも人が結構来る、我々を採っては狂喜して返る、ところがここはゴミだらけ、何が面白いのやら。それでも仕事は果たさねばいけない、花が咲くまで耐えねばならない。きっと傍にも芽を出すものがあり、必ずや花を着けてくれるだろう、陽射しが戻ればきっとそうなる、多少早すぎるくらいのことなのだ。

陽射しは未だだろうか・・」

とまあ、こんな呟きである。それから2時間ばかり、ずっと上流の辺りでは、もっと増しなところに芽を出したフキノトウもあったのだ。お昼を回ると風の冷たさも一際増した、どうやら雨も落ちてきた。川沿いの、人が無遠慮に撒き散らしたゴミに埋もれた道沿いの事である。


CGI-design