■ 両白山地・別山
・・・・2023年08月05日
2023.8.6

本来は、石徹白から辿るべきお山ではあるが、舞空術でも体得しない限りは到底及ぶところでは無い。かくなる上は、ハードルを下げさせて貰い、市ノ瀬ビジターセンターからチブリ尾根を経て別山を目指す。昨今の高温は一抹の不安の種だ。

この時期の市ノ瀬の混雑は聞いてもいた。冷たそうな水の流れる手取川を溯る事およそ30分、センターの建物らしき屋根が見えたところで先行車が止まる。見れば路肩に並ぶ車の前方で侵入を制止するガードマン。次々に到着する車はそのまま山側に着けて路肩駐車だ。隣の車の3人組はトレラン姿、スピードに自信のある方々と見た。

暫く歩くとどこもかしこも車で埋まるビジターセンター、ひっそりとしてガードマンの他姿は無い。更に歩いて別山登山道の標識を見つけた。案内の確認も無く、後の女性が追い越して行った。早そうな歩みである。気温は心配したほどでも無く涼しい。樹林に続く細い踏み跡に並走して作業車が上って行く。いったん舗装路に合流して橋を渡ると再び暗い樹林の途、作業車はやはり舗装路を上るのだ、むむ。

巨大なミズナラ・ブナなどの森に続く緩い勾配の途、こんな事で別山に辿り着けたら有難い事だ。小さな流れの傍を歩くようになって踏み跡に丸い石が多い。風化したコンクリートに埋まる石?、よく見れば火山性の岩石に閉じ込められた丸くて硬い石である。石は石英質で、海岸で出来たものだと思われる。この地域の来歴を語る痕跡である。

岩を抱いた巨木の下から湧き出す水は冷たい。これから厳しい登坂の待つ事を忘れさせる光景だ。水場を過ぎると愈々斜度が出てきた。森の中に陽射しの差し込む場面も多くなり暑い。下山の方々とすれ違う様になり、中には、かなりご高齢に見える単独女性もいて、一様にお疲れの様子だ。尾根が細くなるとビジターセンターから別当出合に続く蛇行する道が見える。道の上方に雲に隠れた霊峰白山、右の肩の下には南龍のテント場。見るだけならとても良い景色だ。

落葉樹が切れ背の低いシラビソに代わると愈々巨大な景色が展開する。見下ろしたチブリ尾根は森の海、樹林の海は遥々とどこまでも続き、同時に気温も上昇し陽射しは痛い。三ノ峰から別山・御舎利山の聳える中に谷に懸る滝の音が響きわたる。南斜面は笹と夏草とお花、吹く風に靡く様子は見ていて大いに清々しい。が、陽射しは痛いのである。避難小屋まで辿り着き、休める木陰などを探しても既に空きが無い。小屋は狭くザック・シュラフなどで埋まっている。少し戻った小さな池の傍でエネルギー補給、ギンヤンマの翔ぶ池には山椒魚の幼生が棲む。

暫く休んで愈々御舎利山への急登に差し掛かる。これからはほぼ痛い陽射しの中だ。暑さに喘ぎながらの途半ば、すぐ先のシラビソをかけ降る生き物がある。様子を伺いながら近付くと、地を覆う笹薮を猛烈なスピードで谷側に移動して行った。あれは熊だ。これを契機に今日はここまで、熱中症で体調を崩しても詰まらない。雲に覆われた別山山頂を背に、長い途を降り、賑わいの去ったビジターセンターに戻って、そこで見上げた尾根筋は、既に夕焼け色に染まっていた。


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