■ 中央アルプス・将棊頭山
・・・・2023年07月15日
2023.7.17

前回の中央アルプス将棋頭山は自己記録によるものだ。自己記録でも何ら問題は無い。が、この方式を拡大解釈した場合は行こうが行くまいが同じ事だと云われかねない。これでは面白く無い。と言う事で、いま一度将棋の頭を踏むべく桂木場を目指す事にした。出発時間は1時間ほど早めてあるから頭を踏むだけの余裕は十分である。

前線は北上して晴れの予想、気象庁も同じであったがお山が近付く頃から雨が激しい。速度を落として雨の小康を期待しながら着いた桂木場には先行車は5台、どうやら小雨程度には治まったもののガスは濃く大いに暗い。悲しいかな、眠い体にムチ打って稼いだ時間も残り少ない。

暗くてひたすら長い途には慰めの花すら無い。人気は少なくガスで暗い森といえば道連れは熊の影。少し前に熊との遭遇があったとの事だ。関西の熊には何度かお目にかかって知合いとまでは言わないまでも気心の知れた仲だ。しかしこの辺りの熊には未だ挨拶さえしていない。よそ者の徘徊を快く思わない熊がいても不思議では無い。その場合のお土産には何を出したものやら。と、あれこれ思いを致しながら尾根に乗ったところで権兵衛峠への踏み跡の確認、する間に後続の2人組が追い越して行った。一件落着、後ろ姿のどこにもお土産の余地の無い軽装であった。

避難小屋を過ぎると俄に明るい道中に変わる。同時に、胸突八丁などと呼ぶ、岩の多い斜度の多めの途が続いて、旅人を苦しめる妖怪の住むエリアになる。この妖怪には無視が一番効果的だが、苔の上に花を置いたりなどして旅人をかまって来るのだ。枯れたはずの花を見て、思わず写真などを摂り時間を空費、そうして疲れ果てるのを待ち取って食うのが妖怪の目論見だ。同じ様な景色が続いて、嫌になるように仕向けるのも妖怪の戦術である。

妖怪の術を逃れ、樹林帯が切れる辺りに明るいお花畑が広がっている。これは、天候も回復して山日和、と早合点してはいけない。強風吹き荒れる這松の尾根は寒かった。気温は9℃だが風は体を飛ばすほど、木曽駒どころか目の前は全てガスと暴風の中である。這松の影でエネルギー補給、痛む手に手袋を着け西駒山荘までの尾根南側のルートを歩く。端正な花のツマトリソウの途を辿ると立派な山荘の前に抜けた。

這松のない砂利の上にポツポツと咲くコマクサ、何とも心細い。これを、高山植物の女王と呼ぶにはあまりに侘しい姿である。小屋前は風は弱い、もしやお目当ての雷鳥の姿でも、と這松の陰辺りを探してみたが詮無い事であった。時間は残り少ない。先ずは、なんにも見えない将棋の頭まで登り、虚しい空間にご挨拶、ちっとは応える気があったのか、北の谷から這い上がってくるガスの間にお山がぼんやり、何とも凄い光景だ。

ピークを踏んだあとは這松の間を縫って、胸付き八丁の頭まで降る。目の前で起こる光景はものすごい。北風小僧にならなくて幸いだった。八丁の頭まで降るとお若い5人組が登って来た。避難小屋まで降る間にソロの男性が登って行った。いい加減飽きた頃に戻った駐車地に止まる車は4台ある。今日のテントは大変だろう。


CGI-design