■ 比良・正面谷〜西南稜を経て武奈ガ岳
・・・・2010年02月14日
2010.2.15

暖かな日と冷え込む日が交互にあり、そうこうしているうちに木の芽が芽吹き花が咲き出し春になる。無論これは関西の事で、大雪の情報が絶えない東日本では異なるのかもしれないのだが、昨年の2月中からの激しい雪解けを思い起すと同じことが起こるようにも思われる。入り口の駐車場には早くから沢山の車があり、未だに覚めぬ6張りほどのテントもあった。

青ガレに向かって登る、流れが滞るほどに凍り付いていた堰堤には、ツララはおろか雪は全く無い、掘り返された登山道の土が、雪や氷や登山者のアイゼンを思わせる。青ガレ下の滝の音が響くあたりから、言い訳程度の雪化粧が顕れた。滝下には7〜8人、アイゼンを装着、青ガレを登っていく、この先の凍結を想定した事である。

ならばとここでアイゼンを装着したのだが、青ガレの岩場には雪も凍りも殆ど無い、足は重くなり右膝への悪影響がありそうなので、青ガレを上りきったところで外してしまった。流石にこの先には最近降ったばかりの雪が、うっすらでも全ての景観を覆っていて、わずかばかりでも雪山の趣が出てきた。

先行者の後ろから辿り着いた金糞峠は、緩い冷たい風が吹き抜け、振り返ると、穏やかな琵琶湖と鈴鹿の連峰の黒い山陰がある、風のない、穏やかな日だ。峠を後にして奥の深谷源流を越え、よき峠谷に入っても雪が一向に深くならない、先行者の踏み跡は夏道を忠実に辿るばかりである。

杉や雑木の枝に残っている雪が、暖かな陽射しで解けて、時にはシャワーのように降り注ぐところもある。首まで埋もれた辺りの雪も、僅かに靴が埋もれる程度、吹き溜まりあたりでも膝が沈むくらいである。夏場と変わりなく水の流れる川を何度となく徒渉、杉の林が切れる中峠したからは、何時の間にか空を覆った薄い雲間から差し込む日差しを反射して、汚れのない美しい地表には溜息が出るほどである。

中峠までくると、なにやら何時もの樹氷と違う煌めきに気が着いた、幹も濡れて凍っている。良く見ると全ての枝先は氷に覆われ、付着した雪と相俟って、絶妙は虹彩を放っている。恐らく雨に濡れた樹木が凍りつき、その後雪に覆われたものらしく、絶妙と表現せざるを得ない。

中峠から口の深谷までのルートにも雪は殆ど無く、夏道を離れて歩いた藪の中でも殆ど足首以上に埋まることはなかった。谷川の傍には暖かな、緩やかな陽射しが溢れ、昼寝でもしたいくらいである、その中でハイカー二人が昼食を始めた、なんとも羨ましい光景である。

ワサビ峠は明王院からの登山者で蒸せる様な熱気がある、薄日で上昇中の気温に加え、万遍なく踏まれた登山道と、その先を登っていく登山者の姿がそう思わせたのである。峠を離れ、西南稜を登ると直ぐ北側に広がる京都北山から若狭国境の山並みが目に飛び込む。延々と続くかに思える西南稜の雪原は、雪の多少に拘わらず素晴らしい。

その中を多数の登山者がとぼとぼと歩いている、遠くになった御殿山から賑やかな笑い声が起こって消えた。見上げた空の雲が多少黒く、厚くなったように思った。武奈ガ岳ピークで昼食中の人々、中にはヤカン二つで湯を沸かすパーティーもあって、和やかな雰囲気である。吹き始めた風がやや冷たくなり、ピークを下ってコヤマノタケへ向かった。

コヤマノタケは何時も幾分気温が低い、そんな時刻に顕れるのか、そのような地形にあるのか、雪面を踏んで昼食を摂った、歩き始める頃には手がかじかむ。大空に手を伸ばすかのブナの傍を抜け、南東に伸びる尾根を下った。アイゼンを装着した御仁に較べ、なんとも無様な格好に違いない。


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