予報では午後から雨の筈。雪ならいざ知らず雨では遠くに行くだけの気力も出ない。剣尾山なら少々の雨でも憂いもない、転げても帰ってこれなくも無い山である。登山口には数台の車、そばのキャンプ場がいやに綺麗に掃除され、、これなら帰りの宴会場に利用する団体さんも増えるのではないか。
何にしてもそれは温かくなった頃の話であって、目の前の桜の花もほころぶ頃の事であろう。しつこく続く木の階段が不安な膝には応える、巨岩(と形容するほどでも無い)に描かれた御仏の加護でもあれば、結跏趺坐して宙を進むこともできようものなど、雉も鳴かずば撃たれまいものを、傍の御仁に叱られなどするのも、一興である。
行者山(岩場が適当に配された山にはこのような名前が多いのには驚く)まで上り詰めると汗が滴る。ハンカチが濡れるにつれて体の中に貯まった毒物が流れ出る心地よさ。松が中心の明るい尾根を歩くと小粒の雨がぱらぱら落ちる。
炭焼き小屋跡あたりで降りてくる人たちと出合った、何れも傍の松ノ木の齢と肩を並べても恥ずかしくない程の人たちで、兎に角健脚である。
最後の階段を登ると真っ赤な涎掛けをしたお地蔵さんが顔をだす。六地蔵などと銘打った一団もあり、ここに茶店でもだせば、けっこう時代掛かった絵になろう。月峰寺跡も、松くい虫被害で枯れた松などが綺麗に切られ、これまでにない佇まいを見せている。
そうとうに大きな本堂跡の傍に、東側を俯瞰できる建屋跡があった。山頂直下の、霧に煙る大伽藍跡には冬の小雨はなかなかに趣がある。
ピークでは、白い巨岩の間に真っ黒な良く肥えた土が露出し、登山者の靴跡がその中を縦横に行き交って、さながら干上がった田圃か畑の様相である。これはまじめに種を植えてみるのも面白い、けっこうな収穫が期待できそうに思える。足の重量が一気に倍になった、膝に悪い。
ピークを越えて横尾山への稜線を下る。すっかり枯れた笹薮の上に、何の鳥か、リョウブの枝先に古い巣がある。葉をだして花でも咲いたらけしてお目に掛かれない、良いところを見つけるものかな。横尾山ピークへ向けて再び登り勾配を辿る最中、髪の毛もやや熟れ過ぎた御大が、あらぬ方向から近づいてきた。笹の枯れた藪の斜面を横切ってくる。
これはまた、不思議なところから。あとで分かったのだが、稜線に真っ直ぐに登る沢筋の道を間違えて、横尾山に近づきすぎたらしい。
そのようなハプニングもある横尾山方面から、二組の夫婦らしいのが通り抜けた。ピークからはトンビカラまで一気に下る。トンビカラは岩場の事だと考えているのだが、実際のところは何も知らない。岩場に立つと、剣尾山と横尾山とに挟まれた空間の全てが見えるのである。故にトンビになったようだと云うのであろう。
一度は上がったように見えた雨が、そろそろ登山口に近くなって再び落ちてきた。この気温では頂上あたりは雪になる。
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