日本海側や湖北では大雪警報も出ていた。雪は嫌では無いけれども道の氷や積雪は大嫌いである。チェーンを巻くのは手が冷たい のである。従って雪情報の煩い辺りへは足がない。行き場に困ると半国山が登場する。幾らか雪もあるのではないか、などと考えていたが、宮前についてがっかりした。松林の上空には冬枯れの雑木林しか見えない。
早朝の寒さは氷点下は間違いない。金輪寺の参道脇のため池は全面結氷、石を投げると、篭った、独特な金属的な反響が伴い、ところが力一杯でも氷を貫くことが出来なかった。池の堤に降り注ぐ陽光の中ではカイロも不要なほど暖かい。影になる部分とは大違いである。
参道を外れ、登山道に入る頃には汗も滲み、松林に入って尾根までの間には顎から滴るようであった。深く、ルンゼ状に抉れた尾根からの道は、よほど古い道であるらしく、葉を落とした雑木の中に、瑠璃渓あたりから続いているだろう埋もれた古道が続いている。背の低い松林を抜けると風が抜け、流石に少し気温が下がった。眼下の集落からお昼前の時報サイレンが鳴り響いた。
尾根をトラバースして東尾根に乗った。ここにもまるで雪がない。尾根の水分という水分は硬く凍りつき、綺麗に光る石を見つけては、ソールで蹴った拍子に氷が剥離する。標高600位から下は松と照葉樹である椿やソヨゴ、榊が主流である。さらに登るとシデの仲間が多くなる。従って尾根筋は非常に明るく、遠く若狭国境付近の山並みを一望できる。
大雪警報の出ていた筈の山々には殆ど雪は見えない。京都西山の最高峰・地蔵山も、その東にある比良山系にもそれ程の積雪は無さそうである。むしろ、黄色く落ち葉したコシアブラの匂いの消失が、初冬を思わせるくらいである。700mの尾根に達するとあとは水平道。殆ど放置された、薄暗い檜の植林地で、毎度ながらがっかりしてしまう。
植林地を抜けピーク手前からは気持ちの良い落葉樹の二次林になる。多くはやっぱりイヌシデが主流でリョウブなのが混じった林である。ピーク手前の、ほんとに急な斜面をよじ登っている最中、大阪方面のルートから、小型エンジンの弾ける、非常に煩い雑音が近づいてきた。静寂な山がひっくり返ったような騒ぎになった。
潅木の林を抜ける間に、轟音と共に1台のバイクがピークへ抜けた。後続は容易に近づかない。このときの腹立ちは筆舌に尽くしがたい。ピークには他に、柔和なかなり若いワイカーが一人。にらみつけたバイクはずっと端で大人しい。若いハイカーはバイクを嫌ってか直ぐに下っていった。と、もう一台バイクが到着、傍に止めて会釈をしたが、こちらは腹立ちの最中、じっと顔を睨みつけて隙をみせないのである。
二人はすぐと後続の様子を伺いにピークを離れ、帽子をとった。その頭は、頭頂部がハゲの親父であった。やっと着いた後続も、やはりそれなりの年配であるらしかった。倫理感の喪失、もとからなかったのだから喪失ではない。全ての混乱の現況を見る思いである。烈火のごとくに睨みつける私を残して、さっさと立ち去ったのは云うまでもないが、若いハイカーが立ち去った方向であった。気の毒に。
静かになったピークは寒い。長らく留まるところではない。脱力感と同時に休息ができる夏場は、誰が何と云ってもやっぱり良い。来週末あたりは比良で初雪でも見ようか。
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