花折峠を越えると、もの狂おしい活発な雲に覆われた暗い空の下、集落はこじんまりとして雨に濡れていた。アスファルトの窪地は大きな水溜りになり、相当強い雨があった事を思わせる。今も雨は降り続き、今日はどうしても上下カッパ着用が必須である。
そもそも天気が悪そうな若狭国境を選んだのは、この辺りの今年の登り収めにするつもりであったので、これもいたしかたない。
久多上の町から暗い林道を抜け、府大小屋前に駐車する頃には、あろうことか雨脚が強まった。いずれにしても止む気配がまるでないのが小憎らしい。憂鬱な気持ちでカッパを装着。ゲートを越え、若干増水した谷川に沿って府大小屋前。強風で綺麗に葉を落とした山が何ともこころ細く寂しく見えた瞬間である。
府大小屋前から濡れて克く滑る割り木の橋を渡り、急斜面に入ると正面には登山道だけが見える。何もなければそれでも良いが、木の枝でもあると頭部の何処にあたるか分からない。帽子が無くても、ひっくり返るほど打った事がたびたびあるので恐ろしい。ときおり帽子を挙げて先の様子を伺いつつの登りである。
冬の衣服にカッパを着ると、直後は真に温かくて気持ちが良い。斜度が出てくると非常に熱く、汗が出始めると気持ちが悪くなる。崖といっても良い様な勾配を登るようになると、カッパの中は蒸し風呂状態。腕を捲くろうにもカッパが邪魔して直ぐに戻る。ゴアテックスでも長時間の雨と汗が加われば、衣類はグショグショになる。
風の無い土砂降りの中をなんとか県境尾根まで、直ぐに右に進んで三国岳ピーク。ここまで1時間10分。これまでの最速を更新した。流石に三国岳から先では風がある。良く踏まれた登山道は、快晴が続いた平日のツアー登山だろうか。沖積土の薄い尾根筋では雨が混じると滑り台と変わらない。P941から登山道を離れて西に伸びる尾根に乗った。風雨が激しさを増し、嵐のようである。
あたりまえだが人の姿は他にはない。でもきっと武奈ガ岳あたりに、こんな雨の中をものともしない頑強なハイカーが居る筈だ。頑強な人だけとは限らない、只のおばかもきっと居る筈。西尾根から南に転じて、西風をまともに受けつつ大谷手前まで歩く。
今年は温かった所為かキノコは殆ど腐っている。大谷手前から、雨と雨だれでベトベトになった急斜面をロロノ谷へ下降。
小降りになる気配もないのでお昼ご飯が食べられない。お腹がグーと大きな音を立てた。ロロノ谷出会いを東側の谷へ進み、10月の台風で、堆積物を綺麗に流した谷を遡上。気がつくと左の靴に水が沁みて冷たい。直ぐに靴下を濡らしてグチュグチュ音を立てる。メーカの製造ミスだと確信しているので、この際、腹がたって仕方がない。腹がたっても仕様がないが無性に腹がたつ。
好い加減遡上したあたりから東側の小さな谷を登った。尾根までは相当に高度差がある厳しい谷であった。引き返すのも嫌なので、潅木もまばらな斜面にしがみ付く。その上には巨大なブナの倒木が行く手を塞いでいる。行く手を左右に降りながら、ウロウロすること30分。漸く尾根まで上り返し、時期外れのキノコの群生を見ながらP941。
再び県境尾根まで下って三国岳ピークを踏み、そこから岩屋谷の激下りを、慎重が上にも慎重に、間断なく降り続く雨の中を戻ってきた。出合ったものといえば梢のシジュウカラ、不気味な鳴き声で名を馳せるトラツグミの番だけであった。
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