粉雪の舞うイン谷口前には結構な車の数である。大形のバスで繰り出す団体さんもいる。管理事務所横からはカラフルな装備を誇らかに身に着けた老若男女の集団がいて、冬枯れた色彩の中でも賑やかである。ガラクタで作った手作りの小屋の前には緑のテントが5張もあってまだ夢の中であるらしい。なんたるおばかの大盤振る舞いであろう。
一昨日からの雨で溶けたのか、暫くは雪が殆ど無い。大山口出会いからは雪もあり、先を行く人の後姿がちらほら見え出した。後姿からは年齢などはかいもく不明である。歩みののろい真っ赤なカッパを着た男性を追い越しざま振り返ると、既に初老を過ぎたくらいのおじいさん。息が上がって苦しそうだ。追い越しながら統計をとると、やっぱりおじさんおばさんが中心である。
青ガレの岩石の一部は顔を出している。これでは尻セードは無理である。青ガレを上りきる手前で降りてきた若者3人組に出会った。昨日はテント泊であったらしく、一様に大きなザックであった。左手の崩壊地を越え愈々金糞峠したまでの苦しい登りに差し掛かった。斜面に張り付く人影がとぼとぼ雪面を登っていく。
振り返ると白濁した薄い水色の琵琶湖がある。金糞峠手前で前を行く登山者は一人だけ、とたんに踏み跡も心細い。峠手前は 強風で地面は露出し完全に凍りついた溝である。峠の上では先行したおっちゃんが一息入れるところであった。北側に越えると気温が少し下がる。雪の上のトレースは全くない。先週までのトレースは、今日のさらさらの粉雪が覆いつくし、ところどころ、ハイカーを苦しめた深い痕跡だけが残っていた。
さらさらの粉雪が20cm位、そのしたは雨で濡れた雪が硬く凍り付いて歩きやすい。谷川の水は何時に無く大きな音を立て、梅雨時のような流れである。川を越えるときはなるべく段差の少ないところを選ぶ必要がある。本来なら雪に隠れた川面は春までお休みの筈で、ハイカーはその上を易々と歩けるのだ。
今日はそうも行かず、岩場が迫る夏道は雪に隠れ、小さな支尾根を度々巻かないといけない。そろそろワカンが必要になった。ワカンを着けても時には首まで埋まるところもあって、そう気安くはあるけない。谷川の別れを直登し、深く抉れた夏道に出た。杉の植林地を抜け、シャクシコバノ頭までミズナラとブナの林が広がる明るいところだ。
日差しがまるでないので陰影がなく、雪面を歩きながら凹凸が分からなくなる。北の風が中峠を越えて吹き募る。さらさらの雪は深くワカンに抵抗がない。露出した凍った雪面を探して峠に乗った。気温は-6度、風が強くてひたすら寒く顔が痛い。樹林越しに武奈ガ岳に続く西南稜はぼんやりとは見えたが、人の姿までは分からない。
雪庇の発達した尾根にそってコヤマノ岳に向かう。雨氷と樹氷と霧氷で真っ白になったブナの枝は重そうにしなっている。ピーク直下の大きなブナの下で、女性を含むパーティーが昼食の最中。此方は行動食のパンだけだが、この寒い中座って食べたいとは思わない。唯一の女性が明るく元気な声をかけて来た。おばさんはタフなものだ。
コヤマノ岳ピークから北東斜面のブナ林に入った。吹く風が更に厳しく冷たくなり、数分で−8度、もう暫くいたら−10度にはなったろう。その中を、スキー場跡から登ってきた中年登山隊が武奈ガ岳目指して下っていく。こちらはすでに十分堪能したので、尾根伝いに金糞峠を目指した。先ほどのパーティーはどうやら同じルートで下山したらしい。踏み跡が新しい
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