■ 但馬・蘇武岳
・・・・2020年07月18日
2020.7.19

どこへ行っても雨が付いてきそうな予感、少々の雨なら良しとするなら、天気図で見た兵庫県北部辺りは雲の切れ目。目指す蘇武岳辺りの降水マップを見ると赤い点々、もしや雨かな?。ところが、着いた万場スキー場の駐車地は雨どころか、陽の光さえ溢れてきそうな上天気。梅雨の最後はこのくらいでも良しとしよう。

先ずはゲレンデ傍のややあれ気味の道、歩き始めるとかなり暑い。廃屋の周囲を埋める夏草は伸び放題、陽射しが少なく野菜は高騰、といったニュースはあったが野草の場合はどうなんだろう?、夏草にそのような話は聞いた事が嘗て無い。ゲレンデ側の芝生の間に、螺旋状のピンクの花を付けるネジバナがちらほら、この季節では貴重な色彩だ。

夏草と湧水で泥濘の登山道、ひょっとするとヤマビル様のお姿が?、と恐る恐る、暗い杉林の中を進むと膝頭に異形のものが、出た〜!、と、よく見れば蜘蛛の巣に絡んだ杉の葉っぱ、そんな様子を見たカケスがギャー!。増水した谷川を渡ると轟々と流れ落ちる滝、ぽっかりと口をあけた空にはどんよりと雲、これよりは、鬱蒼とした樹林の下の急斜面に続く踏み跡、光は殆ど無い。

掃除したような林床には夏草も無い。およそ1月ほど前、キンランのあった辺りはガスが立ち込め、アカショウビンの鳴き声も、梢を渡るキビタキの姿も、陽射しとともに何処かへ去ってしまった。目に流れ込む汗を拭き、足を止めて、光の漏れる右側の崖辺りを見ていると、高い梢の辺りが、俄にざわめく。一陣の風が起こり、山を揺らすような轟音と同時に、雨が来た。

合羽を着ようか、傘をさそうか、片手にストックを握り、傘をさすなら、山を登る手は、もう一本必要になる。立ち止まると、顔を流れるほどの汗、合羽を着ければ、目も開けられないほどの汗になろう。茂る葉叢を抜けた雨粒が、いよいよ、林床まで落ちてきた。辺りは、黄昏れ時の暗さで、ガスは、愈々濃い。

寂しい心細い、暗い雨の急斜面の木々の間に、蠢くように、チラチラ、近付く者がある。汗と雨に濡れた手を止め、振り向いたところへ、息を切らした若者が1人、山野を走り、人と獣の間、妖怪「木魂」に似たその顔は、怪しい笑みを浮かべて、僅かな問答の後、驚異の歩きで、山の上へと去って行った。葉をたたく雨音が止み、ガスが流れ去り、巨大な黒い影から、大きな杉の木が姿を現した。

蘇武岳へと続く尾根のピーク、大杉山の山頂に着いた。この後、蘇武岳までは、大きなピークだけでも5・6つ続く。腹が減っては覚束ない距離、雨上がりのピークで、スキー場を見下ろしながら昼食を食べ始めると、息を潜めていた黒い羽虫が、辺りを飛び交い、体にたかっては身を苛む。彼らが体に着くと、チクチクと痛い。昼食を流し込み、急いでこの場を離れ、次のピークは「四の山」。

かなり厳しい斜度を登って降って、四の山から三・ニ・一と辿り、さて、蘇武岳へは行ったものか?。ここは谷コース出合、ここを降れば周回ができ、バイク・車が直ぐ下の道を通る、蘇武岳までは歩く必要が無い。見れば、東の空には陽射しもあり、今の間に降りたい。明るくなった空のお蔭で、濃いガスは消え、降る尾根は明るくなった。

愈々、谷に下降する直ぐ手前、俄にガスが起こり薄暗い。登りのような気配に包まれ、と、後ろから再び、妖怪「木魂」が現れて、怪しい会話をふたことみこと。去ると再び霧は去り、明るさは戻り、コースを外し、深い夏草の中を辿る事になったのは果たして、彼のなせるところであったろうか。


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