■ 京都北山・三国岳周辺
・・・・2009年11月08日
2009.11.9

京都北山・三国岳周辺から中央分水嶺にかけてはツキノワグマの生息地です。栗の木の高い梢に、折った枝を上手に敷き詰めたところが2、3箇所見えます。

熊棚と呼ばれ、栗の実を食べた熊が休んだところです。熊棚は、比良山系・白滝山の林にも見ることが出来ました。北山から、国道を越えて移動したのでしょうか。

福井・滋賀の峠であるオニュウ峠には、大規模な林道が造成されています。雨に煙る暗い峠では、熊の親子も目撃された事があります。本来、ツキノワグマは夜行性ですが、朝晩や雨が降る薄暗い日中にも行動するようです。

滝谷から上部の尾根筋では、絶えず気配がしたものですが、今年に限り、そのような気配を感じません。山の実りが多い事にもよるのでしょうか。日曜日は、この季節としては非常に暑くなりました。尾根の北側斜面には、週明けの寒気がもたらした積雪が、融け残っています。

あの辺の笹薮には熊が潜んでいそうです。藪に潜むツキノワグマには、ハイカーはこんな風に見えているのでしょうか・・。

この温かさに誘われて、ハイカーが彼方此方出没します。私達熊には有難いことではないのです。木枯らしで落ちた木の実が林床に沢山残っていますが、ハイカーの気配がするので近づけません。こんなに温かいので、熊は余計に食べないといけないのです。

熊には何時までも温かい立冬は在り難くありません。折角食い溜めたこの体が、折からの温かさでスリムになってしまうのです。今またハイカーが登ってきましたが、腰や太腿、全体に肉付きが良さそうで、恐らくは美容の積りもあるのでしょうか、熊にはそんな積りはまるでありません。スリムな身体では冬を越せないのです。

このまま冬眠に入ると、空腹で早めに目が覚めてしまうのです。そんな熊の悩みを知ってか知らずか、二本足のハイカーがドンドン登ってきます。

私は藪に隠れて見送りますが、どうも人の二歩足歩行は頂けません。なんとも無様に見えるのです。第一、理に適った姿勢ではないのです。こんな急斜面を登るとき、我々四本足の歩行こそは、神から頂いた合理性と優美さを兼ね備えたものなのです。この点では何ら引け目はありません。不自由らしく見えるハイカーを見守りますと、酷く疲れた様子でやっと尾根まで登りました。

明るい尾根を西に向かって歩きます。私は藪に身を隠し、恐る恐る見守ります。なにやら黄色い果物らしいものを出して、皮を剥き始めました。風に乗って匂いが届きましたが、これが唾液を刺激して、これはもう堪りません。

食べ盛りの私に、香気漂う食べ物をちらつかせるとは、極悪非道も極まりない事で、強く抗議したいところです。傍に沢山落ちたウラジロの実を口に入れましたが、なかなか収まりは着く筈もないのです。

尾根を越え、大きなブナの木の聳える谷を越えて下って行きます。そういえば今年は、ブナの実は沢山は食べていません。アオハダなどが豊作でしたから、ブナの実はドングリなどと引き換えです。ブナの倒木の傍に集まって何か頻りに集めています。キノコのようですが、熊の良く食べるキノコではないようです。あ、またあの香気漂う実を食べだしました。

非人情を絵に描いたようなこの出来事を、私はきっと忘れないでしょう。それも滓も残さずにいるのですよ。これはもう拷問です。せめて滓くらいは残しておくのが、我々の間では常識なのです。まったく残酷ですよ。

ブナの倒木から離れると、こんどは一段低い尾根に向かっていきます。笹薮の中から見守りますが、この笹が近頃めっきり少なくなり、黒い姿を隠す事が難しくなっています。どうにかして貰わないと昼間の散歩が難しくなります。

こんどはミズナラの大木でキノコを採集しているようです。まったく、あんなものを集めて如何するのでしょう。人非人の考えることは、まったく理解の外のことです。あ、どうやら尾根を下って更に低い谷に降りるようです。喉でも渇いたのでしょうか。

それにしても不細工な姿、危なっかしくて見ておられませんよ。この谷くらい、私なんぞは一足飛びで降りれるものを。

おっと、うっかり姿を曝すところでした。だからあいつ等は油断が出来ません。お、なにやら背中の荷物を降ろして、中から変なものを出しました。ゴーゴー音が出ていますが、あれは火かも知れません。近頃は、ハイカーの焚く火柱を、夜でも見ることがありますからね。慣れたものです。これだけ離れていれば怖くもありません。

おや?、白い煙の上がる水をかけていますね。なにやら良い匂いが・・・うわーこいつは堪りませんや。なんて誘惑的な匂いを出すんだい。ちっとはこちとらのことも考えろってんだ。こんどは滓くらいはのこさねーといけねーぞ。うわー音までうまそーじゃねーか。うわーここから出て行きたいところだ。

少し冷静さを失いました。漸く落ち着きを取り戻しました。ハイカーの去った跡を調べましたが、やっぱり滓もありません。「あ〜無情」という言葉が浮んでは消えていきます。急いでハイカーの跡を追いましたが、彼らの姿は尾根に消えていきました。思わず、ミズナラの実を頬張りました。この味もおつなものです。



CGI-design