■ 中国山地・鷲峰山
・・・・2019年10月20日
2019.10.22

増水した河内川の流れは速く、こんなに大きな川であった記憶は無い。登山口のある右岸は今でも集落の最上流部に当たり、先には細い道が山の畑辺りに通じている。左岸には集落を越えて伸びる道が山中に消えている。川の両岸に伸びる集落に耕作地はほとんど無い。両岸を結ぶ橋の上に、寝そべるご老人がお一人、もしやご病気?、よく見れば、手には小さな移植ゴテ、除けた土雑草は片隅に寄せてある。

登山道の状況を告知する看板には、昨年の大雨以来、通行止め、とあった。通行出来ない場合は中止も止む無し、で歩き出した道脇に、ミゾソバの群落が広がっている。ピンク色の小さな花ではあるが、近頃は滅多に見る事が無く新鮮な光景だ。集落の耕作地は全て、川岸を離れた山麓に広がっていて、残念な事に、その半ばは耕作放棄地になっていた。

昔の峠道は広からず狭からず、歩くには適度な広さと斜度の調整された良い路であった。今歩く道は車でも通行可能な道である。暫く歩くと道が分かれ、一方は見上げた上方まで続く田畑に続き、一方は、轟々と瀬音を立てる谷への道、登山道もまた谷道を示している。安蔵へ続く峠道であるから、より高低差の少ない谷周辺に続くのは当たり前だ。が嘗て歩いた峠道がどうであったか、重機に削られた今の道では全く想像すら出来ない。

味気無い重機の道、ではあるが、道脇に咲く黄色い花のキバナアキギリ、ムカゴを沢山着けた自然薯の蔓、谷底にも届く光がもう少しあれば、もっと豊かな光景に見えたかもしれない。あいにく今日は、空は雲に覆われ山のピークはガスで見えない。谷底はなおのこと暗い。林道が終わると、背の低い草の生い茂る嘗ての峠道が現れる。今では中国自然歩道に指定されていて、苔生した橋とはいえ強度に不安は無い。ただ、濡れた木の上はよく滑るのだ。

谷底を離れ、よく育った杉の途を辿ると安蔵峠。思えば嘗て歩いたときの杉林は全て、1メートルに満たない幼木ばかりで、明るい展望に満ちたルートであった。木の成長は思いの外早い。尾根道を進むと人の声がする。安蔵側から登って来られたご夫婦である。この先から続く見上げる様な木の階段道を歩いたかどうかは不明だ。

その階段道はやはり厳しかった。崖といってよい斜度と木の階段は堪える。712mの瘤からやや平坦な途が続き、後は再び木製階段の途、アキノキリンソウなどのお陰で幾らか気も紛れる。尾根周辺にブナなどが現れると紅葉が気になる。多少色付いたものもチラホラあって、来週あたりは本格的な紅葉が見られるだろう。

長すぎる様な途の彼方に、鷲峰山のピークがうっすら、ガスに煙るブナの林、林床近くを覆う背の低い落葉樹の杜、素晴らしい光景を見上げて辿る木製階段の途はそれでも堪える。樹木に覆われたピークを踏んで、北に少し歩くと広場に出た。本来北にあるべき眺望は無し、古い木のベンチでエネルギー補給、汗に濡れた体に抜ける風が冷たい。北の森のなかから子供が飛び出た、それも3人、付添の男性がお二人。

ガスのかかる曇り空、暗くなると嫌でも暗い谷道はやっかいだ。食事が終わると直ぐに下山、河内の田畑が見えるところで軽トラのお爺さん、「熊はでなんだか?」、車を止める集会所の前に座るお爺さん、「山に登るのを見て、心配で待っていた」と仰る。近頃は河内ルートで登る方はいないらしい。道が荒れて以降は尚更だとの事、古い生活道路を大事にしない方々だと思っていたのは誤解であった。


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