今年の秋は例年より早く進行しているらしく、紅葉も今週あたりが見頃だとの事。見事に染まった山塊を眺めるのは、若葉の萌え出る楽しみと同じようでありながら、滅びの悲哀おも伴うのである。
秋をものおもわしく感じるのは日本人の血のなせる業である。
先行者の隣に車を置いて、ひたすら長い林道歩き、向いの山は一面に色づき、今週を過ぎるとうすら寒い光景へと変わるだろう。
道端の葉は赤くて賑々しくもあるが、何分、空は真っ暗だし、風も出でてきそうだし。その上ガスでも出たら、随分寒々しい光景である。
陽光があれば、降り注ぐ光を10倍にもするだろう赤い木々の葉も、光が無ければ薄黒く変色したようにしか見えない。
1時間ほども林道を歩き、地蔵谷出会いで谷川を徒渉、直ぐ先のところに滝があって、高巻きがまっている。伐採地を少し登ると、どうやら横に歩けば谷に下降出来そうなところである。伐採された潅木を踏みしめながら、やっと川原に下降。
上流に向かい、次第に明るく広くなる。暫くは右側山腹を植林が覆っていた。
大きなザックを降ろして、大いに寛ぐ二人組みの女性がいた。なにやら大声で叫んでいたようだが、人に聞かれて不味いような事も混ざっていたのか、笑いで全てをごまかしたようだ。瀬音に負けない、大きな笑い声が谷に響いた。
谷底から覗く狭い空より、今日の谷の中は明るい。黄金色に光る栃の木の落葉が多いのも、明るさの所以である。
歩きやすい傾斜が続き、かなり川幅は広くなった。左右の谷の出会いを過ぎ、とにかく流量の多い谷を目指した。原生林の太い落葉樹の中に入ると、流れも細くなり、見上げた尾根から明かりが漏れる。
尾根直下のキツイ登りを終えると赤ゾレ山の北側に出た。そのまま縦走路を少し登ると、カヤトの広がる赤ゾレ山ピークである。滅多に通らないピークなので、珍しい。
カヤトの中に、花を閉じたリンドウとウメバチソウ。忽ち風が強くなり、同時にガスが流れてきた。薊岳はガスの中で見えなくなった。鈴の音が近づいて、縦走路南側から男性が一人現れた。
池に降りる間に女性が一人、いずれもかなりのお年である。池の周囲の草は、鹿に踏まれて概ね倒れていた。池に下りるとここは風が抜けて寒い。
縦走路脇に数本あるウリハダカエデが真っ赤な葉をつけていた。地表に落ちた葉で辺りは赤く色付いて、そこだけ絨毯のようで綺麗である。お湯を沸かしてラーメンを食べる間に、先の二人連れの女性も表れて、下の池の傍で昼食に入った。
如何にも嬉しいらしい声が響き、屈託のない様子で寝転んでいた。10人ほどの団体さんが通りかかった。口々に面白い事を仰る。
そのような光景が、ガスの立ち込めた風の強い、赤ゾレ山南側の池の傍で展開したのである。今にも雨が降りそうな中である。
食事が終わり、ここから直ぐに東の尾根を下った。急斜面には大きなミズナラ、ブナが林立し、色付いた葉と山肌の色とが、日常ならざる光景を見せていた。谷まで下降し、赤ゾレ山ピークから東に伸びる尾根に乗った。
なだらかな台地上の地形があって、大峰のように厳しさを感じさせる場所があった。
冷たい風が吹く尾根には、新しい踏み跡が残っていた。尾根の周辺にはヒメシャラの林が続き、落ち葉と合わせて、林床が非常に明るい。薄肌の樹皮に触れるとまた非常に冷たい。林道の見える辺りまでは歩きやすく、迷うようなところも皆無で、全く散歩くらいの調子で歩ける。
最後は流石にやや傾斜が厳しい。台風の豪雨で綺麗に泥を流した木梶谷の清流で、顔も靴も泥を落とした。
歩くうちに、いよいよ空が暗くなり、ついに雨粒が落ちだした。前後に人の影もない。しかし、この天気でも楽しそうに笑いさざめく二人のハイカーは如何したろう。
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