■ 中国山地・岡山県立森林公園
・・・・2019年07月13日
2019.7.15

遅れ馳せながらも西日本の空は本格的な梅雨の色、陽射しの無い山中は思いの外涼しい。ときにパラパラ落ちてくる山中を、傘さして歩く姿はそれほど悪く無い。霧などに隠れた大樹の下はどんな秘密が待ち受けているものやら。先行者が4台ばかりの駐車地は静かで、下山したばかりの女性が引き揚げるところだから残りは3台。歩き出したばかりの木の橋の袂に、ラン科らしい花を見た。花と言うより花の名残りと云うべき様子で、クモキリソウと云う植物であった。

そぼ降る雨の道の両側に、鮮やかな花を開いたヤマアジサイのある光景は、このところ関西では見ていない。並んで咲いたウツボグサさえ珍しい。白い花びらを道に散らすのはナツツバキ、見上げても、咲く姿を拝める場面はそう多く無い。モミジ平から千軒平を経て、最高峰であるキタケ峰を回り半周する積りではあるが、雨の様子でどうなるやら。

小さな川を2つ越えると見上げる尾根が立ち塞がる。右に歩けば熊押し滝、今日は厳しいコースから始めよう。尾根はブナの巨木が大勢を占め、露出した根は編み目状に土を掴んで雨もない。ここでは傘は不要なのだ。残念なことに、ところどころで切り倒された木があるのは、ナラ枯れにあったミズナラの木だ。気温は低いが汗が溢れる。カッパを脱ぐと、山の気が皮膚から入り込んで来るような爽快感、しかし濡れた背中は乾く事が無い。

中国山地の稜線に出たところに休息小屋がある。晴れた時でも暗い内部は今日は殊の外暗い。人の声に左手を見ると、お爺さん2人とおばあさん登山隊、暫時地図を見ながらの協議の結果、公園の東の端のスズノコ平目指して森に消えて行った。相当な健脚グループとみた。稜線を西に歩くとモミジ平、見渡せば、名前の通り、モミジの巨木ばかりが林立する平な森である。

森が切れるところに人工的な岩石群があり、古いタタラの跡では無いかと人知れず思っている場所が有る。が、そのような表示は一切無いから、やはり人知れず思うだけが無難だろうか。森が切れるとこの辺りは須らくチシマザサの林になる。切り開きの道が一本、笹原の中に続いている。笹の林の縁にはヤマアジサイが咲きヒヨドリグサが咲き、ヒヨドリグサの上には多様の蝶が羽を休めている。なかでも、酷く羽を痛めたツマグロヒョウモンはとりわけ美しかった。

しかし不注意に歩くと後悔する事もあるだろう、足下にはマムシも身を横たえる場所だ。虐められた事が無かったのか、威嚇もなく素直に笹の薮に消えて行った。暫く笹薮の切り開きを歩き、雨脚が強くなった頃に千軒平のピークに着いた。北の雲間に若杉山だけが覗いている。千軒とは名ばかりの狭いピークの周辺に、大変な数のアカモノが黒い実を着け、ササユリに混じり多数のイチヤクソウを見た。

雨に濡れた千軒平からの降りは難儀である。斜度のある踏み固められた登山道はよく滑るのだ。傘をさしてはバランスが取れない。急坂を降ったところで前途を諦め、雨のわりに明るい、ブナの純林の続く尾根を1キロほど降って道に出た。雨のない四阿でエネルギー補給、目の前を、軽装の、トレランスタイルの男性が帰って行かれた。このあと雨脚は更に強くなり、ところへ単独の男性が着いたところであった。


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