小雨の中、西粟倉村から延びる林道を走っていると、600を過ぎた辺りで雪に変わった。無事に登山口まで行けるかしらんと戦々恐々、と前方にコーンが見えると先に道が無い。この先30m程が綺麗に流出し通行止め。止む無く付近を見回し若杉天然林に向かった。が若杉天然林の駐車場は900程、到底そこまでは行かれまい。案の定、道に雪が出てきて、大茅スキー場辺りの広い駐車地に車を止め、後4キロほどは歩きにした。用意の間にハイカーらしき車が2台登って行く。付近は、雪を被った杉の木ばかりで、気温は0度。
スキー場の前までなら未だ走れる。ここを過ぎると傾斜のました路上は雪で覆われ、タイヤ痕が3つばかり、1つだけ数時間は古い。橋を渡ったところで迷走するタイヤ痕、どうやら制御を失った挙げ句に溝に落ち、路肩のコンクリート壁にぶつかった車があったらしい。古いタイヤ痕のものである。車では見過ごしてしまうものも徒歩では見えて来る。古来から続くタタラ場跡と立派な屋敷跡、説明板によれば、有名な宝刀のいくつかはここで生まれた物らしい。
雪道でも数キロも歩けば汗が出る。千種高原への出合の路肩に2台の車、真っ白い道に残る踏み跡は5人分ほど増え、振り向くとかなり賑やかだ。時雨空から漏れる陽射しで辺りの景色は一変する。若杉天然林の駐車場前の真っ赤な実を付けたナナカマド、雪の中では尚更赤い。先行する方々の中に、兎角寄り道の好きな人がある。狸の行動様式に似ている。
原生林に入ると景色は再び一変する。葉を落とした巨木の枝先まで雪が着いて、木の細部までがよく見えてくる。しかし背の低い木も交じりやや煩い。先行者のお陰で歩き易い道が残る。雪の下に隠れた石や木々を踏むと体制を崩す、踏み跡があるとその苦労が無い。踏み跡は、谷を詰めて若杉峠に続いている。踏み跡は名残惜しいが谷を左に歩く。途端に危うく尻もちを点くところであった、慎重に行こう。
雪の上に、消えかけた踏み跡の様なものが残っている。気の早いクロカンの痕跡かとも思ったが、どうやら足の短い動物の移動した跡らしい。北側の尾根に近くなると雪は30センチに近い。降ったばかりで気温もー7度、サラサラの雪は負担では無い。付近は大木ばかり、四方は尾根で下の樹木は素直なものばかり、静かな美しさがある。残念ながら陽射しが無い。尾根に近いところは須らくガス、寧ろ鳥取側の上空に青空が覗いていた。
雪に重みは無くても歩き辛い事には違い無い。行動時間が長くなるとエネルギーを失う。風の緩い辺りで行動食、僅かな間にも熱を失う。食べ終わったら直ぐに歩く方が負担が少ない。どこかで会うだろうと思っていた先行パーティーの姿が無い。若杉峠の東屋に入ると足跡だらけ、真ん中に鍋の跡があるから、彼らの目的は雪中鍋パーティーで有る事が知れた。なるほど、陽射しが戻ると春の様に温かい。
暫くその温かさのご相伴をさせて貰って、さあ降ろうか。谷の中は平坦で登るところは最初と東屋までの2箇所だ。入口まで戻った道に、幾らか溶け出した足跡は寂しい。彼らの車があった道から、1台車が降りてきた。今日3台目の遭遇で、人との遭遇は無い。残る4キロは降りばかり。 |