久しぶりの快晴。気温も相当に高く、乾いた風こそ夏の終わりかな、と思わせはするが、久しぶりの盛夏といえなくもない。川面に太公望の姿が溢れるのも晩夏の風物詩ではあるが、納涼とは云えないほどの日差しである。
大又の駐車場には既に5〜6台の車があり、ひっそりしたところへバイクに跨るおっちゃんが現れた。テントや何かを詰め込んで、えっちらおっちら歩き出した後ろから、半袖・短パンのおっちゃんの早いこと。
こちらは重いザックが引っ張るは、思いのほか長い林道の照り返しが応えるはで、林道終点の徒渉地点で早くも汗を拭きつつ涼をとるのである。谷川の水は少なく、下見の時には流れのあった笹ヶ峰界隈の谷川がちょっと心配になった。
ここまできたら後はなるようになるだろう。明神滝の水量も少なく、まるで迫力がない。
考えてみると愛車の汚れは盆前からのものであった。何時か雨が降れば綺麗になるものと考えていたのに、結局今日まで降らずじまい。なんぼなんでもの汚れ方で、已む無く汚れだけでもとふき取ったところであった。今年の夏は雨が少ないのに違いない。台高も例外では無かったようである。
明神滝を高巻き、枯れた岩場と化した谷を渉って九十九折れの道に差し掛かる。この辺りからは遠望もあり、従って風も幾らか吹くようになる。小さな谷川はささやかな流れに変わっていたが、明神平手前の水場は何時もの水量があり、ここまでに消費した水を補い明神平に着いた。先行したおっちゃんは、天蓋の下でおにいさんと歓談中で、どうやらこの後ピストンするらしい。
涼しい風こそは吹き渡るのであるが、日差しがきついので木陰に移ってエネルギー補給。まだアキアカネが飛び回るのを見ると、お山を下る時期到来とは判断していないのである。さもあらん。纏わり着く小バエを捕まえて、来る日に備えよう諸君、と呼びかけているのだが、煩い蝿には何ら効果がない。
ダブルストックに小さなザックを背負ったおにいさんは、明神岳目指して颯爽たるスピードで樹林に消えていった。爽やかなおにいさんや。山では30〜40台はおにいさん。50台で少し毛が生えたくらいは、敬称略のにいちゃん。あとは知らん。食事も終わり風の吹き渡る草原を、明神岳目指してやっぱりえっちらおっちら。日帰りではないので、余裕も手伝うからなお遅い。
おっと、忘れるところであったが、山岳マラソンなる脅威のスポーツをやる(多分)ご夫婦が明神平に登ってこられた。何れも細身で半袖・短パン・スニーカーとナップサックを背負っている。天蓋の下に入り、食事の最中であるが、恐ろしいことを思いついたものである。
明神岳から先、踏み跡は檜塚奥峰に向かって降下している。台高主尾根を行く人は無いらしい。ブナの純林が続く主尾根には、平坦なピーク辺りにミズナラの巨木がある。この時期のミズナラが魅力的であるのは、知る人だけのことであろうが、尾根周辺に僅かに名前も知らんキノコくらいがところどころにあるだけである。笹ヶ峰手前で、山岳マラソン二人組に抜かれた。走り去る後姿は、人のものとは思えん。
山姥などというものが、昔は各地に住んでいたらしいが、これも似たような生物であろうか。なんとも驚異的な見ものである。笹ヶ峰を越え、水場に向けてゆっくりした尾根を下降、乾いた川床を見ながら下降するうちに、少し南からの小谷と合流、僅かに水の流れがある。陰気な林の中にあり、東に空いた台地の窓から入る風は心細い。ビールを冷やすには水は使える。
尾根を登り返した東の端に、松阪労山が命名したのか「シャラ・ブナ平」の山名プレートのある、東の眺望の良い小奇麗な広場に出た。今日のテン場を確保して、主尾根に帰り、せめて千石山までは行かねばと向かった先から、山岳マラソン二人組が、流石に疲れた様子で、歩きながら登ってきた。
ここからの尾根は細く、千石山まで両側の斜面は鋭く切れている。西側に展望の良い岩場はあったが総じて眺めは良くなかった。千石山ピーク手前まで歩き、ここから引き返して水場を探り、冷たい水をペットボトルに汲んでビールを回収。テント設営後、多少早めではあるが火を起こし、冷えたビールを飲んだ。ブナの林を透かして西陽が届くころ、東の空は濃い群青色に包まれていた。
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