■ 若狭・頭巾山
・・・・2017年06月10日
2017.6.11

頭巾山を目指す日は、どう云う訳か、多くは好天に恵まれ、光に溢れた福居の田園風景を美しく見せる。今日もまた、午後から崩れる予報ではあるが、今のところは素晴らしい青空で、高めの湿度のせいか、些か暑すぎる程だ。そろそろ雑草の背丈も気になる頃で、沿道には集落挙げての草刈り隊の出動、お年を召した方々が多い中、すぐ側では犬と散歩を楽しむ中年男性も居られた。

最近は登山者は多く無いのか、登山者用駐車場には20センチ程の雑草が繁茂している。側の木造家屋にも変化が認められる。思いなしか、人の気配が減ったように思われる。歩き出して直ぐのアスファルトの道上に、何処へ向かっていたのか、アマガエルが這う。交通量の至って少ない状況とはいえ、車が通れば惹かれる恐れがある。拾い上げて草地に移動、と思ったが、手のひらを離れ肩まで攀じ登ってきた。

お供を希望するなら、お断りする必要も無い、適当なところまでお運び致すところ、気付けば集落最上流の家も過ぎ、余りに離れては彼の希望と隔絶する事も心配で、葉を茂らせた柿の木の下に降りて貰った。ここなら鳥に襲われる心配もなく、望めば、川の流れが下流に運んでもくれる。カエルとは云え、顔を挙げ、ジッと前方を見詰めた彼(彼女?)の顔はなかなかの美形であった。

車の温度計は23度であった、が歩くとそれ以上に暑さを感じる。陽射しと同時に気温も相当上昇したに違い無い。谷コースとの分岐から、橋を渡って尾根コースへ進む。谷コースの踏み跡は殆ど無い、酷く荒れた谷コースはやや危険なのだ。ではあるが、こちらのコースも結構キツイ。何よりも、橋から谷川を渡渉する迄の区間が大変に暑い。暑い林道で体温の上昇を図るマムシには良いのかも知れない。今日のところはマムシは不在、白い花を咲かせたウツギの仲間と、やや色気を添えるコアジサイが咲き始めたところだ。

崩れた土手をへつるように越えて小休止、谷川の水は痛いほど冷たい。ここから杉の林に入り急坂を登り、とこれが今日は嫌である。このまま作業道を登って尾根に出よう、綺麗に咲いたコアジサイの群落もある。作業道を歩く人は少ないのか、獣道の他踏み跡が無い。獣道を辿ると行き止まり、何度かこれを繰り返して、伸びた杉の木で塞がれた道を迂回し、気付けば汗はボロボロ、陽盛りのデコボコ坂道は苦しかった。

この山の自然林は見事な程に美しく、林床のイワカガミは清々しい。ブナが主体の森は伸びやかで、汗ばんだ身体を癒やす木陰は別天地だ。倒木に腰掛けて暫しの休息、色々の鳥の声が木霊する中、気の抜ける様なとぼけた声が聞こえて来た。アオバト、こいつが鳴くと雨になると云う鳥が、けっこう頻繁に鳴いている。気温が急速に下がった様に思われるし、天気予報もあるし、今日は横尾峠までとしようか。

温度計を見ると15度しかない、先程までの、茹だるような坂道とはえらい違い。涼しくなった、フカフカの道のあっちこっちにギンリョウソウが顔を出す。空はいつの間にやら、すっかり雲に覆われた。着いた横尾峠は薄暗く、安置された2体のお地蔵様の赤い衣はボロボロだった。篤志家の出現に期待しよう。葉叢で見難い日本海側は、陽射しの無い薄雲の下で霞んでいた。直ぐに雨になるとも思えない、が今日はここまでで良い。

引き返し始めた林の中に、ヨタカの声が響き渡る。夜でもないのにヨタカが鳴くとすれば威嚇の他に無く、先週に続いて、またまたヨタカのお邪魔をしたのか、身に覚えは無いのだ。雛の姿でも見せて貰えたらと身を隠すと、鳴き声は消えたが同時に手掛かりも消えてしまった。降りは作業道出合から正規の登山道を降った。花期を終えた林床のイワカガミが美しい。美しくはあるが、どうも植物の種類が少ないのだ。有毒の植物以外は残っていない。木でも、低い辺りの小枝は全て食われている。そして食べた鹿の姿もまるでない。既に食料となる植物が無くなったのだ。

切り拓きの道の急斜面には多様の植物が残る。道からおよそ1メートルは、真新しい鹿の足跡が残るだけで、全く何も生えていない。ここまで食害が酷くなると、流石に放置できない状態だ。山の植生への影響のみならず、里の田畑の被害も多くなる、6月で山に食料はもう無いのだから。谷川の水辺の側の、鹿には首の届かない辺りで、近頃見なくなりつつ有るササユリを見た。


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