■ ヨタカの森
・・・・2017年06月04日
2017.6.4

ヨタカは、夜鷹と書くように、本来は夜に活動する鳥です。今は6月の始めで、子育ての時です。ヨタカは巣を作りません。山の木陰の落ち葉や土の上に、2個の卵を産んで、お昼は主に雌が抱き、夜になると、雄と交代する様なのです。ヨタカの色は、土や落ち葉の様ですし、山腹などにうずくまっている場合、朽ちた棒切れとほとんど見分けがつきません。

足を降ろしたすぐ先から、鳥が飛び出した時には驚きました。目の前の切り株の上でヨタヨタ、飛べそうに無い様に蹌踉めきます。直ぐに、擬傷である事は分かりましたし、ヨタカである事も分かりましたが、足の先50センチの土の上に、小さなタマゴを2つ見つけた時には、踏まなかった事にホット胸を撫でおろしました。で、改めて親の方を見ると、少しだけ距離を開け、相変わらず擬傷を演じて、関心を自分の方に集めようとしているのです。

小さいながら、感心な心がけ、偉いやつよ、と思いながらも、ヨタカの声はよく聞きますが、姿ほどは、滅多に見る機会などなかったのです。本来、早く立ち去るのがこの場合の適切な行動です。しかし千載一遇の機会、その場からは離れましたが、30メートル程の距離を空けて、親鳥を観察し続けました。すると親鳥は、タマゴは勿論の事、観察者さえ一望出来る高みに移動したのです。そこには別の親鳥も居て、番いで不審者を見下ろしているのです。

その姿は、朽ちた枝などでは無く、立派な鳥の姿です。そうして高い梢から、闖入者を威嚇しているのです。これでは此処に留まる訳にも行かず、スゴスゴと尾根に登るしかありません。時刻は未だお昼を少し回ったばかりで、ヨタカの活動する夕暮れには間がありました。暗い森ではありましたが、比較的良く手入れのされた森では、林床にも陽射しが届き、そうしたところでは、白い大輪の花を付けた野草が、山腹の至るところで見られ、点々と山頂に向かって続いています。

急斜面を登りながら、ヨタカの番いの留る木を見ますと、並んだ位置は変わらないのですが、心なしか、彼らから威嚇の気配が消えた様に見えました。白い、満開の花に導かれる様に尾根に乗り、彼らの留る木も、彼らの姿も視界から消えたちょうどその時、ヨタカの鋭い声が響きました。暗い森ならなお遠くまで聞こえるだろう良く透き通った声で、キョキョキョキョキョ、と鳴きました。

6月に入ってのこの涼しさ、乾いて、肌寒い程のそよ風の抜ける山頂、満開の花の下には、陽射しも溢れ、陽射しの中は明るく、鳥の声に満ちていました。ヨタカが巣食っている森は、そうした森です。



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