■ 播磨・藤無山
・・・・2016年11月13日
2016.11.13

志倉集落までの道は細い。電線も引かれているようだしアスファルトに残るタイヤ痕は間違いなく集落のある事を示している。しかし落葉に隠れた路面は心細く、路肩の割れ石は気になる。ターン可能な広い場所は限られ、水源地横でとうとう車を止めてしまった。ちょうど車数台の駐車可能地を見つけたところだ。車を降りて先を伺うと、ここでも道路脇に二三段に並んだ、自然石を使ったお墓があった。お墓に刻まれた文字からは、昭和9年と明治34年は読む事が出来た。川向こうの杉林に、かなり大きな石垣に囲まれた領域があった。

歩き始めて直ぐ、橋の先に小さな数軒の家があらわれ、何れも軒を重ねる様に作られていて、庭におばさんが一人、地図によればここが志倉集落と言う事になる。数軒のうち、少なくとも2軒は既に空き家だ。それにしても山深い地の細やかな集落。登山口は橋の手前の落葉に埋もれた道を行く。直ぐに舗装も終わり、地名板にはジゴクダニ、とカタカナで記されていた。その横には、幾本も建てられた破魔矢があった。満足なものは新しい1つで、他は矢の失われたものであったが、繰り返し置かれている事は理解できる。ジゴクダニの所以を治めるものであろうが、あまり嬉しい見ものでは無い。

すぐ脇の杉の木の根本から湧き出す水場には、藤無山の水、と書かれていた。周辺で一番の高峰である事は間違い無い、が方向も違うし背後の山は藤無山では無い。冷えた空気の澱む林道にも、明るい陽光が降り注ぎ、所々に残る落葉樹の紅葉でそれ程も暗くない。水の流れた林道は石ゴロゴロであるき辛く、暫く歩くと汗が溢れる。車の入る余地はまず無かろうと思しき辺りに通行止の鎖があった。

林道はやや上方にターン、ここが藤無山の登山口で、真っ直ぐに詰めれば谷コース、右に折れて谷を詰めれば尾根コース、とある。良い具合に尾根コースを行って谷コースで降れば周回コースが可能だ。尾根コースを行くべく林道を詰め、大きく崩れた場所は、辛うじて残った靴幅程の路肩を踏んで、え!?、前方からの奇声に顔を挙げるとテン泊装備の若者4人組。

奇声とも聞こえたのは、どうも歌のようで、聞けば、昨日は藤無山でテン泊であったとの事、この先の熊の心配が無くなった。林道終点は陽当りも良く、周辺の山々の植林の合間は綺麗に色付き、吹く風はヒンヤリとして汗ばむ身体には快い。しかしこれまでの経験知から考えると、左上のカヤトの原まで直登が続くのでは無いか、だとしたら今日は暑さに耐えねばならない。

未だ小さな杉の林を、想像の通り薄い踏み跡、先の4人組の踏み跡を残す登山道はほぼ真っ直ぐに登って行く。ルート開拓の方々の思いは遠い北アルプス辺りにあったのだろうか?。尾根に乗ると今度はカヤトの急斜面をほぼ真っ直ぐに登る。背の高いカヤトの山腹は、登山道に沿い1メートル程を刈られている。大変なご苦労をなさった方々があったのだ。今日は気温は高く、陽射しはきつい。カヤトの上の気温は20度を越えた。

辿り着いた尾根上の風は冷たく、巨岩の居並ぶ狭い尾根は、今日一番の見ものであった。直ぐ下にはブナの古木もあって、原生林らしい雰囲気がある。巨岩の尾根を巻いて薄い笹原の急斜面が続く。ところが周辺の木々は細く全て裸で紅葉も無い。トラロープのある斜面が緩むと藤無山ピーク、正面に氷ノ山を背後にした大屋スキー場が見えた。しかし期待した原生林は何処にも無い。エネルギーを補給して谷コースへ下降、少し降った落葉の緩斜面は太いブナやミズナラの原生林、やや下方の北の谷は綺麗な紅葉もある別天地であった。

僅かとは言え素晴らしい森が残っていた。で、降りのコースは何処だろう?、立派な山頂標識もここで尾根を間違えさせては効果が無い。落葉に隠れる程の踏み跡を探して、降る斜面もまた厳しかった。トラロープは設置されていたものの、このルートでなければならない様な所でも無く、やはりルート開拓の方々の思いは1流の登山道にあるらしい。谷コースとあった様に、暫く谷を下降すると山腹のトラバース、山腹を登る尾根コースに比べるとあっけない幕切れで林道終点に出た。

南中を過ぎた陽射しに映える道側の紅葉、志倉の家の庭には朝のおばさんがやはり一人で作業中、空気に湿りが出てきて山並は霞み始めた。やはり明日は雨だろう。


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