ふるさとの森の入口駐車場から林道を約2キロばかり歩く。深い、原生の谷底では、落下し始めたばかりの栃の実を拾う地元の方々が数人。大方、栃餅の原材料として売られるのだろう。沿道には、やや見頃を過ぎたツリフネソウが延々と続く。黄色のものは極少ない。暗い、涼しい、羽虫も少ない道を暫く登ると谷底に釣師がいる。丁度釣り上げるところで、見ると良い型のイワナだった。大きな滝も無く、このまま釣り上がれば良いものを、道に上って来られて流れを物色する。
振り返ると、直ぐ後で駐車地に着いたご婦人が迫っていた。珍しい花を見付けて、その撮影中に追越して行かれた。後で調べた結果、花の名はシラヒゲソウと云い、乱獲で希少となったらしい。舗装路の終わりに、2台の京都ナンバーの車があった。ここからは、出たばかりのススキの穂が迫り、狭くなった道を歩いた。暫く歩くと扇ノ山の山腹を走る道に出て、ほんの少しで登山口がある筈であった。出合にあった標識に従えば、左に折れるのが正しいのだ。
実際は、右に折れたら直ぐに登山口に出合う。暫く歩いてみても登山口が無い、これは方向を間違えたな、とは考えたが、これを機会に、姫路公園側からの登山口から登ってみたい。そこまで、距離はどれ程のものか確認する必要があるのだが、分厚い雲に覆われた状況ではGPSが機能しない。無論、地上波の届くエリアでは無い。
ブナ等の綺麗な森を見下し、やや秋色に染まり始めた森を見上げながら、ススキに縁どられた道を延々と歩いた。ご夫婦の乗った軽トラが追越して行った。半球以上の空が見えたところで、再度位置を確認した。結果は、姫路公園側の登山口まで残すところ約1時間。色付く山葡萄の葉の下に、たわわに下がる黒い房。鳥ならぬ身では味見も難しい。
尾根心を通過する辺りで、まだ青い実がのこる房から2粒味見、やや酸味が強いものの、出来は良さそうだ。直後、車で来られたお爺さんも山葡萄の物色を始めた。このあたりは山葡萄が多い。降り勾配になり相当の高度を失う事になった。目指す登山口は遥かに下方、登る扇ノ山は眼の前に聳える。賑やかな声と、展望台の屋根が見えたのはほぼ同時。見れば、山仕度の男性と女性が7名ほど、こんなところで何をするのだろう?。
興味はあっても時間が無い、登山口目指して降るのみ。車のドアが閉まる音が聞こえる。何方か下山して行かれたのだ。登山口について地図を確認、ピークまで1.9キロ、では1時間で歩こう。谷川に沿い、渡渉とアップダウンを繰り返し、本命の木の階段が現れた。斜度は厳しく、いつ果てるとも知れない急坂はずっと上まで続いている。時間が無いから休みも入れられ無い。
汗がボロボロ、顔から落ちる。心臓が苦しい、と云いながらも、止む終えなければ、結構やれるものだ。尾根の明かりが漏れて来て、あそこで緩むか、もう50メートル。着いて見れば、まだまだ斜度は緩みそうに無い。自然林になって、勾配が緩み始め、苦しい階段も無くなり、風も出てきた。ピークは近い、と思ったところに階段と急坂と、風を遮る背の高い根曲がり竹。何ぞ悪い事でもしたのかな?。
しかし流石に1300程ではイジメもここまで、山頂小屋の屋根が見えたところが山頂であった。古い小屋跡はベンチが数基、新しい避難小屋は無人で、小屋泊まりも十分可能な立派なものであった。エネルギー補給と同時に登るはずであったルートを下った。先行したご婦人の足跡が残っていた。今日の分は1つだけ。降りのルートもかなりの斜度があった、そんな記憶は欠片も無い。
山腹道路出合まで2キロ、駐車地まで約7キロとあったが、これは間違いで、凡そ4キロ程の距離しか無い。従って、駐車地まで1時間半で下れるだろう。駐車地に先に戻られたご婦人は、未だ残る車を見て、どう思ったろう。まさか、道迷い?。往路で見つけたシラヒゲソウ、復路で見つける事が出来なかった。神様の思し召しだろうか?。見たい時に見れるものばかりでは無い。 |