■ 中国山地・鷲峰山
・・・・2016年08月5日
2016.8.7

安蔵森林公園の管理棟を見るのはこれで2度目、ただし前回は管理棟の屋根を見たのみで、あれから20年ほどを経てやっと全容を見る事が出来た。その間に放棄された設備等もある様だから、20年前は相当に大きな施設であった筈だ。管理棟の横に鷲峰山の登山口がある。折しもお昼に近く、真夏の陽光は容赦が無い。登山道は最初舗装された道で始まり、直ぐに夏草の中、踏み跡の少ない泥濘んだ山腹に続き、獣に蹂躙された薄暗い梢の下の、小さくもないアップダウンを繰り返す途が続く。

嘗てはこれでも管理された路であったようだが、今では見る影も無い。薄暗い、風の届かない森には虫が多い。蚊やアブが目の前を飛び回り、身体からは汗が滴り、夏草の中に咲く大柄の夏エビネを見た時だけは、日本海側の森の豊かさに感心した。山腹には紫陽花の仲間やキリンソウ等があって、せめて羽虫だけでもどうにかなればユックリできるものを。歩みを止めれば忽ち蚊はたかる、アブは止まる、目を狙って羽虫が飛び込む、ロクな事は無い。

やっと鷲峰山の主尾根に乗ると、西の河内方面からの風は強く、羽虫は全て吹き飛んで、1本点ける等して暫しの休息。そもそも、この時期にこんな低山に登る人があろうとは思われない。嘗ては河内から登りはしたが、季節は11月、山頂部では、相当に早い凡そ20センチの積雪があって寒かった。植林地帯の木々は細く、見晴らしの良いコースだった。いわんや羽虫等は居るはずも無い。少し降ると河内方面との出合、この先の急斜面を一気に登る木の階段が迫る。

整備されたばかりであった階段の枕木は、20年の星霜を経て朽ち果てたものもある。森林公園が管理者である筈だから、放棄されたその他施設と同様、これ以上良くなる事は有りそうに無い。梢越しに見える施設の赤い屋根は、森に飲み込まれそうに、小さくなった。人の業は何れその様な運命である。木の階段を改めて見るとその急角度、その付け方、に驚くばかりだ。小さな曲折はあるものの、崖に近い急斜面の山腹にほぼ真っ直ぐに延びる途、段差はそれ程も高くは無いが、以前はほとほと参ってしまった。

今日のところ足の筋肉が悲鳴あげるほどでは無いにせよ、暑さは半端では無い。上着と云わずズボンと云わず、身に付けたものは全て汗で濡れた。やや斜度の緩くなる辺りで小休止、南側に聳える山々はガスに覆われはじめ、辺りに不穏な音が響き始めた。喜んで良いのか哀しむべきか、鷲峰山ピークのある北の空は明るい青空。階段を登りきると尾根ピークまで緩い途、少し降って再び階段の途が続く。辺りは笹に覆われ、以前はさほども無かった光景だ。

階段途をトボトボ、途の傍に咲くヤマジノホトトギスは美しく無い。以前は、この辺りで後続の正装したおじさんに追い越され、如何にも、顰蹙の眼差しを頂いたのだ。長靴は良いにしても、山登りの装備は何も無し、弁当を持っただけの雪山登山であった。階段途が終わると森の雰囲気が代わる。二次林から原生の森に代わり、細い雑木から太いブナが中心の植生に代わった。ガスが立ち込めて気温が下った。頭の上で、葉を叩く雨粒の音がパラパラ。

ピークまでは凡そ30分ほど残した辺りだ。今日は時間にも制約があるし不穏な気象も気に掛かる。雷の音も近付いた様に思われるし、ピークは秋にまた来よう。ザックを降ろし、巨大なブナの古木の森を暫く散策、アオゲラの幼鳥が、親を追い掛けて盛んに鳴く。降りに入っても木製階段は足の負担だ、不慣れな頃に降りでもへばってしまったのは頷ける。峠から森林公園までの途は予想以上にキツく暑かった。乾き始めていた衣服は再び汗まみれ、蚊には食われアブとブヨにも刺された山であった。


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