丹波の白髪岳、この暑い中登る山かどうか?、しかし風邪がまだ影響力を行使している以上、是非とも必要な修行である。そんな必要のある人はごく少数だろう、と思っていると、地図を片手に、この暑い最中のアスファルトの道を、駅から歩くハイカーがいた。身の引き締まる想いを新たに、駐車地に着いた。あらら、今にも歩き出しそうなお若いカップルと空の車が1台。案外暑さにタフな方々はいるものだ。
木陰の下に車を止め、陽射しの少ない道をテクテク、先の二人はまだ来ない。厚さと相談の上、撤退の相談でもと、余計な忖度などをする間に、姿が見えてからの彼らは早かった。黴菌に侵された身体は重く、登山口まで半分の辺りで汗はボロボロ下着は濡れる、組んだ腕から滴る汗。そんな病人には目もくれず、無言で追い越して行く彼らの足に、重い登山靴の替りのスニーカーが涼しそうだ。
何クソ、と思えば追い掛けたくもなりそうなものだが、今日のところは半病人、湧き水で身体を冷やしてユックリ行こう。急斜面をジグザグに登る登山道、殆ど崖を登るような急勾配、足はまあ疲れも無く歩める様だが心臓が持たない。立木に凭れて暫し心臓を慰め、しかし蚊の多い樹林帯では休息も責め苦に等しい。ここは尾根までの我慢であった。
尾根に出ると風があった。腰を降ろすに相応しい場所を探してもう少し高所へ、余り登ると樹林の切れる岩尾根に出る、そこは休むに適さない。松尾山の見える樹林の下で大休止、汗が冷えても寒くは無い。温度計を見ると25度もあった。風邪の黴菌はどうやら死滅したのか、身体は軽くその他兆候も影を潜めた。水ほどは飲まねば回復は覚束ない。何時もより多い目の給水の後、主尾根の岩場、道にあったハイカーは未だ1時間は掛かるだろう。涼しい風の抜ける主尾根でも暫しの休息、床でもあったら横になりたい。
そうは問屋が卸さないから、極楽のような木陰を離れ、焼けた主尾根の岩場を巻いて、さて次の岩場は巻道が無い。岩場に登ると流石に眺望が良い。登った山等も隣の山脈に見え、腰を降ろしてボンヤリするのも良い。ところがやはり岩は暑い、立っただけでも汗が溢れる。眺望などはこの際二の次で、鎖等を持つのも煩わしく、急いで灌木の林に入った。登山道脇の絶壁の小窓から漏れる風は極僅か、吹き出した汗には功が無い。
ピークから声が聞こえる、先の二人かとも思ったがどうも英語だ。ピークの岩場に出ると二人の白人男性、途端に流暢な日本語に切り替え、篠山辺りの自宅を指差されて、日本在住30年だと仰有る。既に日本国籍も取得済で、白髪岳は我が山だと豪語する。色々伺っていたら、過日の雪の日に出会った元気な白人男性と分った。一緒に降り始め、徐々に間が開くと自然と英語に戻って行った。器用な賑やかな二人組。
静けさが戻りため息一つ、虫の少ない涼しい尾根にシートを敷いた。エネルギーを補給の間にまたまたお若い二人組、こちらはかなり応えているようで、後ろの女性は足を引きずるような歩き方。それでも隣の松尾山経由で周回する様だから偉いものだ。こちらは内なる敵の掃討も済んで、エスケープルートで登山口に戻るコース。松尾山から下山する男性を発見、途中で見ていないので松尾山のみを歩いたものと思われる。 アスファルトの帰り道、ポツポツと駅まで歩くハイカーが数人。 |