雨の恐れも残る南部を避けて、積み残した課題を調べて見たら、3月に行く筈であった、段ヶ峰が浮上した。暑い最中のススキの尾根が、どんなものかは知らないが、梅雨明けが宣言されたとは言え、天気図では必ずしも夏本番ではない。今日も上空には寒気の流入があってのスッキリしない天候なら、そう暑いとも思えない。
3月とは違い、藪に覆われた段ヶ峰登山口に先行車は1台のみ、裸の林はコナラなどの葉で覆われ、薄暗いのは薄日を遮り都合が良い。眺望の開ける辺りで見廻した峰々は、濃い霧の彼方に稜線を認める程度。直線的に延びる尾根はやはり厳しい。背丈を越える、密度の濃いススキの群生の中は暑かった。ススキが多少薄くなると冷たい風が吹く。そんな区間は極僅かで、太陽熱を充分蓄えたススキの道を歩かざるを得ない。
加えて、露出した皮膚を傷付けるので、腕と云わず顔と云わず、出来るだけ覆っての登りは更に暑い。達磨ヶ峰で900を越え、400くらい登った事になる。緩やかな尾根歩きに変わっても、ススキの道は続く。稼いだ高度で気温は下がり、吹く風も強くなって暑さの方は凌げる程度、気になるのは、ススキにより視界がまるで得られない事だ。ガスも掛かり、曇り空の下の視界は凡そ1メートル、直ぐ側を、相応の質量を持った獣が地響きを立てて離れていった。
普通に考えれば鹿かイノシシ、悪くすれば熊の事もあり得る。防御姿勢が必要だ。樹林が現れ、ススキの道が切れてホッとひと息、この先はアップダウンだけに集中出来る、それにしても良く出る汗。遠くに見えたフトウガ峰は、一旦降り、登り返した先に見える。振り返ってみた尾根辺りに響く後続ハイカーの声。フトウガ峰に乗ると樹木は殆ど無い、都笹が地を覆い、僅かに背の低い小さいアセビ等が生えるだけ。
フトウガ峰のピークを踏んで、同じ様な山容の段ヶ峰の手前で一旦降る。降りの途中で振り向くと、手の届く処に後続ハイカーがいた。ご子息とお父さんの二人組だ。しかしこの様な抜き方は無い、先のご子息の目には登山道しか写っていない、様に見えた。お父さんが挨拶をして降って行かれた。降った道は、徐々に高度を稼ぎながら、段ヶ峰に続いていた。道端に、ママコナの小さな花、時折ホトトギスの花も見た。
段ヶ峰ピーク手前で、降りて来る子供3人とお父さん、何れも半袖半ズボン、いい加減な靴と、凡そ山登りと云うより、別荘周辺の散策と云った格好である。途中、無造作に滑る踏み跡を沢山見た、彼らのものであるとしたら、無理も無い。ピークに立つと、直ぐ下の岩の傍で先の親子が食事中、それ程も広く無いピークを離れ、近くのピークにザックを下ろした。ここにも段ヶ峰の山標があって、3メートル低い。僅かな食事の間に体が冷えて寒い。空は一面の黒雲、山頂を越えてガスが流れる。
降っていった3人と1人が引返して来た。峠に降りる積もりだろうか。食事を終えた2人が戻って行った。冷え過ぎるまえに出発した直後、雨が落ちてきた。傘をさして歩く顔の前に、風から守られた羽虫が飛び回る。嫌な奴らだ。千町峠までは30分くらいの降りであった。そこには広い舗装路が通じ、宿泊も可能なログハウスがあった。他に車が2台、送っては頂けそうに無い。それは無理も無い事で、道は直ぐに酷いダートに変わった。北側に降ろして貰っても帰れ無い。
峠から凡そ2時間、それにしても、子供3人とお父さんは何処に行かれたろう?。駐車地の1台は、何方のものであったろう、2時間の道程に踏み跡は無かった。帰り着いた駐車地に車は1台しか残っていなかった。久し振りのミステリー
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