国道29号のトンネル東側、右手の橋を渡るとヤマメ茶屋があった。手前の小広い草地に車を止めた。隣には渓流釣りスタイルの二人組、この下は確か管理釣り場で、これより上流は管轄外ではなかったか?。今は釣はやらないのでどうでも良い事だが、釣るなら最源流部が面白かろう。それにしても煩いのは、側に数台止まったオフロードバイクだ。
用意の間に国道に出ていった。途端に辺りはあるべき静かさを取り戻した。と思う心の隙をつくように、新たなオフロードバイクの集団が国道から入って来た。そのうちの数人は白人で会話は全て英語、最後尾のバイクにはカメラを載せている。まさかgoogleの撮影隊でもあるまいが、国際的評価を受ける道だとも思えない。この道は確か大屋に通じているはずで、この先はダートで酷い路面であった。十数年前の事だ。
当時は現役であったヤマメ茶屋、流水を凝らした庭は今でも十分鑑賞に値する、が入口はトラロープで封鎖され、茶店そのものは入口と云わず窓と云わず、開放出来るものは全て開け放った状態で、一見営業中に見えなくも無い。入口辺りの夏草は伸び放題、放置された状態と結論せざるを得ない。しかし現役の車は数台止まっているから、放棄された訳でも無さそうだ。恐らく蛇や毒虫などとの共存が可能な状態とは言えよう。
舗装路は直に終わってダートになった。新しい土色の残る路面に割れ石等は殆ど無く、かなり広い路面は好ましい程度に整備されている。その道を、四駆や軽乗用車までも登って行く。嘗ての酷く毀損した道では、本格的なオフロードカーとバイクしか通行出来なかった。そうと知っていたら何も、長い道程をテクテク歩く事も無かったのだ。右に大きくカーブして谷を離れる手前に、南尾根に乗るコースがある。
そこにも駐車場があって軽乗用車が2台、ハイカーが数人集っていた。ひょっとすると今では、氷ノ山登山は登山口まで車で入るのが常識になった?。林道の彼方此方に見る積み石、ケルンがあると云う事実は、歩く人も少なくないという事だろうが、今日のところ他は全て車であった。距離は確かに短くなるが、標高差は殆ど無い登山になる。羨ましいのは事実だが、巨木の林立する深い谷の印象は徒歩ならではの事だ、便利さの代償に何を捨てるのかは夫々の判断。
標高1000の登山口にも駐車エリアは確保されていた。ここから三の丸までは約4キロ、山頂までは約6キロ、植林地に続く緩い勾配の途をボチボチ、30分も登ると落葉樹の森に入る。途は広く、ただ周囲を背の高い笹が覆うので展望は全くない。幹周り5メートルも有りそうな巨大ブナがあった。奥には更に巨大なものがあったが竹の藪は凄まじく、とても近付けない。竹の子の季節にはやや遅いのだが、密生する笹の中では到底熊に太刀打できるものではなかろう。
延々と続く登り一辺倒の緩い途もけっこう応える。前を遮る谷川には、熊の水飲み場、とあった。熊には是非笹薮の中に居て貰おう。森林が切れると陽射しが暑い。笹薮の向うに霞む山のシルエットは千種高原の辺りだろうか。ここでエネルギー補給、三の丸は笹薮の向う辺りであと数百メートルもなかろう。山頂までは1時間、が今日は時間が無い、ボチボチ降って18時頃になるだろう。
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