■ 伯耆大山・宝珠越〜ユートピア・天狗ガ峰
・・・・2009年08月08日
2009.8.10

大山寺から元谷に向かってブナの林を歩くと細い出会いに下宝珠越の立て札がある。谷を詰めると立派な林道に出会い、更に尾根を見上げ、揺らぎのない雨後の谷を詰める。

霧が立ち込め視界はまるでない。谷を離れるに従いブナの木も細くなる。斜度が緩み立ち並ぶ殆どブナの純林を眺めるに、大峰・台高との違いがある。まるで素直に伸びたものがないのである。

よほど幹に対する圧迫が違うのか、全てくねくね曲がりながら伸びており、そして幹が白い。尾根に上がっても風は無い。中宝珠に向かって尾根ピークを越え、霧がなければ北壁が展がるあたりで下りになる。下草や潅木に覆われているので、それほど圧迫を受けることはないものの、両側は相当に険しく、尾根は1mほどしかない。

ここからは結構な岩場もこなしながら高度を稼ぐ。写真で見覚えたロープ場を過ぎると開けた尾根上に出た。目の前は北壁であるから、霧さえなければ大展望である筈だが残念。上宝珠を越えてトラバース道が続き、見上げた尾根上にユートピア小屋がある。

殆ど水平に近いダイセンキャラボクの潅木帯を歩くので、最後はキツイ登りを覚悟していたのだが、あっけなく北壁の東側、三鈷峰とユートピアの中間に飛び出た。

カメラを持った中年の男女が集い、東側斜面にはお花畑が広がっている。基調となる青紫のナンゴククガイソウの波の中、シモツケソウの柔らかな赤色を散らし、橙色のコオニユリをところどころに配して、足元をイヨフウロの淡いピング色が引き締める。夏道で見たよりずっと小さな、白い可愛らしいヤマハハコなど、カメラに収めたいと思うものはふんだんにある。

狭いユートピア小屋の前はお弁当を広げる人で埋まっている。登山道を外すと花を踏んでしまうので、腰を降ろす場所も少ない。西側には見上げるような切り立った細尾根が続いており、東側には三鈷峰のピークがある。よく見ると、小さく蠢くささやか登山者の姿があった。お花畑は南側の谷を埋めて下の谷まで続き、その先は親指ピークと呼ばれる飛び出した岩尾根に続いている。

昼食を食べ、そろそろ西側の北壁に沿って散策してみた。けっして縦走などを考えるものではない。花畑は大山東壁に向かって広がり、むしろユートピア小屋あたりより綺麗に咲いている。ふと見た苔の上にダイセンオダマキが数株ある。変わった花で、花弁に似た筒状の紫色のガクの中に、黄色い筒状の本当の花が隠されている。下から見なければ黄色の花は見えない。

まだまだ歩けそうな尾根が続き、お花畑も続いている。ここで、象の鼻で昼食中男性が追いついてきて声をかけて来た。中華の巨匠「陳健一」に何処となく似た人である。花の名前をお聞きしつつ、天狗ガ峰までなら歩けるらしい事をお聞きした。花の名前やその他一部については不審の念も禁じえないところもあるが、親切心での事ではあり、素直にお聞きするの他にない。

確かに天狗ガ峰までは歩けたのであるが、霧が晴れていた場合はどうであろう。天狗ガ峰から先の南側斜面は、確かに眩暈のする程恐ろしいところである。霧が晴れれば今以上に見えるのだから、掻き立てられた妄想の虜になるのは必定である。半可通では心もとない。陳さんも、帰りたいのでこの先は行かないとの事。

時おり日差しも戻り、霧も晴れて素晴らしい景観が広がるかに思えるその次には、現れた山影は完全に雲間に隠れて完全なホワイトアウト状態に戻ってしまう。下りに入っても登ってくる登山者がある。今日は小屋泊まりだろうか。上宝珠越まで戻り、愈々最後のお楽しみ、砂すべりである。岩場を下ると真っ白な砂の中に黒く湿った道があり、足を置くと、実に良く、快適に滑ってくれる。

一歩踏み出せば三歩進んでくれるのである。僅かな時間で標高差200m近くを下りきった。振り向いた北壁の大きな谷間に、汚れた白い塊は万年雪だそうで、スノーブリッジが口を開け、そこでは落石が絶えないとの事、危ないところであるらしい。元谷を下り、真っ白になった靴やスパッツを、大山寺奥の院トイレ横の水道で洗い、ここで陳さんとは別れた。



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