今年の初登りは地蔵山、麓から見上げると8合目辺りから上は真っ白で、雪と霧氷は期待出来そう。初春の越畑は温かくて、その分人の気配も漂ってくる。道路には薄雪が付いて、風の抜ける辺りは氷もあって車は最徐行、集落の中の細い道は登山靴でも危うい。気温はやや高めだから、陽射しのあるところはもう溶け始めた雪の雫が煩わしい。
山に入ると松などの下は雨模様、峠まで登って何とか落ち着いてきた。地蔵山に続く真っ白な斜面に足跡を残し、雪の砕ける音が小気味良く、森と静まり返って何の音もない。裸の枝先から覗く青空は冬のものとは違って厳しさが無い。斜度が厳しくなると僅かな雪と落葉で良く滑る。山腹一杯使ってジグザグに登った。振り向くと、そこに残る傍若無人な足跡の酷いこと、後続があったらどう思われよう。
しかしこれは先行者の特権であるから勘弁して頂こう。急坂を越えた辺りから増えた雪で、樹木の無い緩斜面に広い綺麗な空間が出来ていた。ここで一服、本当に静かで、小鳥のひとつだに見掛けない。竜ヶ岳の上には立ち昇る様な白い雲と霞む青い空。アセビの林に入り、いつもの事ながら、雪の重さで撓んだ枝が道を塞ぐ。今日等はまだ夏道が歩ける程度だが、もっと降ったら抜け道探しで時間の掛かる領域になる。それでもアセビの繁殖は止まらない。
アセビのトンネルを抜けると明るい反射板跡地に出る。今日は特別に明るく、かつ温かい。それでも氷点下であるから、お地蔵様の前でのんびりなどしていたら風邪をひく。いつもに変わらないお顔を拝んでピークまで、流石に2・3人の踏み跡は残っていて、愛宕神社の賑わいが伝わってくる。
さて、帰りはどうしたものか、ジープ道は今でも痛い右膝に悪かろう、直登コースは更に悪い。竜ヶ岳まで足を延ばす積りも無いから、畢竟ピストンしか残らない。溶け始めた雪とドロを纏めて靴に付け、ゆるゆる降った静かな集落の黄昏時、あちらこちらに人影がある。温かい微風の中、お孫さんほどの子供を連れた、おじいさん、おばあさんであった。 |