そうとう増水した川の流れを見ていると、6月の雨ならさもあらばこそ、12月とあっては小首をひねる。気温は12度で湿度の高い大気の中、昨日あたりは大雨でもあったような仏主の集落、谷川の水は溢れる、湧き水は至るところで滲み出している。橋の袂に車を止め、用意の間に白い車が来た。川面を見詰めて何やら感慨に耽っている。
山ですか?、はい、片道2時間ほど、良いですな〜わしは下見です、ほ〜山ですか?、いや来年の釣りですわ、渓相が良い。来年の春とはまた気の長いお方だ、そうで無くとも師走の事、来春の事では鬼が笑う、のみならずお互い暢気だ。お気を付けて、と云われたら、嫌が上にも気丈なところを見せなくては済まない。行って来ますと云うと、眼差しはまた川面に移った。
キャンプ場までの道に轍がひとつ、汗して歩く後からもう一台、高度差250m、距離2kmを無駄にするとは勿体無い。葉を落した樹林越しに仏主集落が良く見える。葉を落とさ無くても展望の良い場所はある、季節柄を込めるとスッキリとした裸の林を透かした景色は是非絵にしたいところだ。そう云う意味で勿体無い。尾根が近づく辺りの路肩には、形だけなら地上の星ともいえるツチグリがある、弾けた個体も転がっていて、風でもあれば本望も遂げ得ようが、こう雨が多いなかでは不本意に違いない、彼らはアドベンチャーである。しかし色は土色に斑ときては、幾分アドベンチャーの名声の妨げにもなっていようか。
キャンプ場管理棟に着く頃には一枚脱いで丁度良い。そのまま尾根に上がって東屋跡で小休止、汗を拭く間に薄日が差す。師走の日本海側気候では僥倖の部類、雪があっても不思議では無い。こんなに温かいと、一旦入る寒気でドカ雪が心配だ、寒冷化の引き金になり得る。更に高度を上げるとふく風に冷たさが出て来た、休むと身体が冷える気温になった。枯れ木に生えるキノコも既に遅い。
山頂直下の植林地に入って登り一辺倒の傾斜がキツイ、治まった汗が背中を濡らす。先行者二人は登山道脇でラーメンタイム、温かいものが恋しいのは同様、山頂の南側で風こそは避けえたものの、濡れたシャツではものの数分、忽ち身体は冷え始め、10分後には降る周回コース、手袋の手は痛い。
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