この数年、8月の終わりから9月にかけて、涼しい日が続いている。順当に秋になるかと思うとそうでもなく、後には二度目の夏日があって、9月も終わる頃にやっと秋めいてくる。そうして秋は駆け足で去り冬が来る。停滞する前線のせいで朝から雨、それも強い雨脚。
仏主の登山口には車が一台、濁りの出た谷川を伺う初老の男性の車だ。濁りのある川ではトラウトも釣れまい、早々に諦めた方が見の為だ。こちらは雨の中、せめてキャンプ場まで歩くつもりで、どうやら雨も小康の間に終えたいのだ。気温は20度を割って、カッパが無ければ寒かろう。フードを被ると視界が悪い、加えて熱気が籠もる。頭程は濡れても差し障りが無い。林道を散歩中の沢ガニが一匹。
谷川に沿った林道を離れてキャンプ場に続く道に入った。道脇に花の痕が残るヤブレガサ、マツカゼソウの開花は近い。大きく育ったタケニグサにも花穂があった。他にはボロギクくらいしか見るべきものが無い。仏主集落を見下ろす辺りの木々の葉は、夏場の生命力が感じられ無い。道に、大きなキノコが転がっていた。誰の仕業なのかそれとも天然か、何れにしても大きなキノコだ。イグチの仲間でアカヤマドリダケと云うらしい。ヨーロッパではイグチの仲間は食用であるが、日本でも食べるのだろうか。
松とクヌギの林床を見ると、今年はキノコが豊作だ。ある種のキノコも同様と云えるかどうかは専門外で不明、しかし一般に云って豊作だと思われる。キャンプ場に着いた頃から雨はほぼ上がり、遠い山脈を覆うガスが切れ始めた。展望の良いベンチに座り、15度の風が汗を飛ばす。側のヤマボウシの実は赤い、ひとつ取って齧ってみると、甘みの後に青臭さがあった、未だ充分熟して無い。
青臭さの残るヤマボウシの実には、沢山のキイロスズメバチが集まって、中には噛み付かれて墜ちた個体もあるほど、争って食べている。他の果実類に先だって熟したと云うことだ。種の繁栄に必要な果実だろうが、スズメバチが増えるのは有り難く無い。尾根の東屋の天井の様子が知れる。
余り休むと寒くなる、雨もまた強くならないとも限らない。ぼちぼち降ると結構な斜度に気が付いた。こちらから降りは初めてだった。雨の日も乾いた日にも、変わらず水の滲み出す切り割の苔、雫の落ちる束の間、緑のランプが光芒を放ち、次々と連鎖して絶え間ない。車に戻った途端、強い雨が来た。釣り師の男性も引き揚げた後であった。
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