今日の平野は乾いてサッパリして、気温は24度と大変に過ごしやすい。たかすみ温泉の広い駐車場に散在する車、何れも無人である事から、半ばは既に山にあると考えられる。川岸に沿って歩くと涼し気な川面に水着を着た女の子とお父さん、陽はさし始めたばかりで些か寒々しい。
川底に多少の砂を留めた澄明な流れは、草臥れた足を着けたいと云う誘惑を駆り立てる。果たしてそうした時間に空きがあれば是非演りたいものだ。赤い橋を渡ったところで後続が出来たらしい。植林のヒノキの林の中もこの時間は涼しく、気温の上昇に伴う風もあってまず歩き易い。今日のように暑い日は、兎角日除けになれば、植林でも自然林でも有り難い。
最初の階段の登りを終えるとなだらかな山道が続き、尾根も近くて吹く風に冷たさがある。時代劇に使っても良い絶妙な曲線を描く道の左側が切れて、覗く青空と山の端と、これはどうしてもザックを降ろして一本付けなければ勿体無い。松の根は椅子に丁度良く、手入れされた檜の林も明るい。さてザックを担いだ処へ後続が顔を出し、そのままそこで小休止らしい。
一旦谷川まで降りて高見杉なる樹齢700年の巨木、芦生辺の台杉に比べると幾らか見劣りがする、と小屋を後にして道は小尾根伝いに登りはじめた。あれ?、楽しみにしている小さな沢は何処にある?、ここまで順調に辿って来たのもこれが為、冷たい沢水が無ければ甲斐がない!。
やれ嬉しや!、件の沢はも少し先の、次の小尾根を超えた処にあって、漬けた手は痺れる程冷たく、洗った顔は清々する。流れの側の倒木に腰掛けると谷を吹き降ろす風も冷たい。でまた一本の小休止を挟んで、杉谷出合までの尾根道が続く。途中、ソロの男性が2名、降りて来られた。何れも厳しい斜度に差し掛かった辺りで、笑みを含む顔に余裕があった。
杉谷出合の小ピークでも少々の休息を入れ、ここからピークまでの標高差300、以外に厳しい斜度が続く。休みの間に直ぐ後ろに着けたお兄さん二人組、追越したい様子に此方も休みを入れる余地が無くなった。大きな声は出るしお若いのだ、着実に歩数を稼いで歩くのみ。声が大きくて様子が知れる。ヘタったとみえ、逞しい身体は樹林に消えた。
それにしてもキツい斜面、ピーク近くでお二人の下山者があった。無人のピークにチョウが舞う、チョウだけなら天界の様でもあるだろうが、アブや小バエもいる下界に変わりは無い。就中、無風流な鳴き声で辺の静寂を破るハルゼミには閉口だ。山頂祠の前は希少な木陰を提供する。小屋の中は陰気臭いし屋上の日差しは厳しいのだ。
希少な木陰を占領して、さて後続はと見るに、二人組が来るものと思っていると、逞しいおばちゃんが到着した。今日は極め付きに遠望があり、檜塚や薊岳、伊勢辻から国見山、大峰辺りも鮮明に見え、人影等も見えはしないかと単眼鏡で覗いて見たが、流石にそれは有り得ないようで、遅れて到着した若者二人、親切なおばちゃんに山の名前等を尋ねていた。
一番に食事を終えたおばちゃんは、祠の裏から大峠に降って行かれ、若者二人も来た道を降りて行った。勿体無い様な好天で、山頂気温は21度、道の混む前に降ろうか。因みに、足を漬けるべく降り立った焼けた川岸に、余地は残されていなかった。 |