雨の県道を三田に向かい、波豆川を遡った道の左側に登山道の地図がある、しかし今は工事のため通行止のである旨の看板も併せて立てられていた。大船山の西側に別の登山道が有るらしい。古い峠越えの道が登山道となり、恐らく猪名川の街道筋まで続いているだろう。この辺りに大きな川は無いのか、矢鱈に溜池が多い。
十倉に着いても雨は止むどころか更に強くなった。公民館の様な、広い庭の隅に車を止め、さて一言挨拶をと見た集会所の中、静かに正座したおば様方で一杯で、声を掛けようにも、低い声で合唱の最中、こちらの姿は見えている筈だが微動だにされない。どうにも止むを得ず、傘をさして歩き出すと、道端の畑におられたおば様が、まあこんな天気で気の毒に、と声を掛けられ、美味しそうなキューリ片手に、登山口の入り方を教えて頂いた。
ここにも大きな溜池があった。教えられた様に、害獣避けの電気柵を外して入った登山道の先には、折からの雨水を集めて濁った溜池があって、更に登るとあと2つの池の端を通って山に入る。土手にはカエルを狙うヘビ、これだけ池があるとヘビはさぞ多かろう。
照葉樹と松が主体の暗い森の中は 、あちこちに出来た谷川の流れる音で賑やかで、踏み固められた道の表面は綺麗に流されて白い。僅かに流れる風も傘をさしては恩恵が無い。いつの間にか小康になった雨は傘を畳んでも良いほどで、枝葉からの雫ばかりは我慢しても、傘の無い方が快適に歩ける。
雨の峠はもの寂びた様子で、他に登山者などがあろうとは到底思われず、しかし抜ける風と充満したような湿度から解放されただけでも有り難く、一本付けたりなどして大休止。再び歩き出した暗い山腹のトラバース道、着いたところは十字路で、右に登れば山頂とあり、トラロープ等がサポートする道が続いている。距離はそれ程も無く、少し暑い思いに耐えると山頂に着いた。祠のある綺麗な少広場で、ガスが晴れると街並みが見え、似た様な三角錐の山が2つ3つ、さてこれからどうしよう。今の道をピストンでは甚だ面白く無いし、山頂からは他に2本の踏み跡がある。
北の踏み跡は降りた所も駐車地に近く、地図によれば崖等も無さそうだし、途中でロストしたとしても大事にはならないだろう。斜度は少し気になるところだが歩け無い程でも無い。折角だからと下り始めた北側の踏み跡、直ぐにマーク等は無くなって、たっぷり雫を溜めたヤブが煩い。加えて岩混じりの山肌は不安定で歩き辛い。
標高差から判断して相当降った筈で、ほぼ半ばを過ぎた辺りに炭焼きの跡があった。これはこの下から登って来たので、まず道があると判断して良いだろう。付近の樹木は落葉樹が主体で、植林も無く照葉樹も無く明るい林だ。つづら折れの道を付ければ斜度はどうにか出来るし、登山にはこちらが断然良いだろうと思う。
大きな谷に降り立って、道跡らしいものを辿ると池に出て、アスファルトの道に抜けたら集落の上に飛び出た。いつの間に良くなった天気で出始めた稲穂が風にそよぐ。振り返ると初めて大船山が全容を現し、降ってきた山腹の林が直ぐそばであった。
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