5月最後の週末とあって、天気予報の、午後から良くなる、空とは裏腹に、今にも銀の尾を引き落ちて来そうな空模様である。太平洋岸の梅雨前線がものを言うのも何れにしても近々であろう。
越畑はお决まりの駐車地、廃屋の側の路肩に駐車、廃屋ではあるが、草生すアプローチには轍が明瞭で、小さな納屋には新しい農機具がある。故に耕作地の継承はスムーズに終えたものと拝察する次第。水の少ない谷川には、主は無くとも綺麗に咲き誇る黄色い燕子花、雲間から漏れる陽射しに、色合いも克り鮮やかに輝いている。
ふと廃屋の一角に目を遣ると、風呂場だろうか、小さな引き戸が少しだけ空いて、薄暗い内部が少しだけ見えた。まさかそこに人の目でもあったらパニックだ、稲川淳二のお話だとそんな展開に決まっている、夏草に埋もれた廃屋と色鮮やかな燕子花、あ〜恐ろしい。
そんな訳で、今日は初めて樒ガ原からジープ道を登って地蔵山を周回するコースを歩く。雨は降らば降れ、梢の高みで鳴くホオジロも雨如きでは止む様子も無い。見るべきものの少ない道中、帰化植物の白い花と、石組み等に繁茂するユキノシタが満開だ。ユキノシタ科ではジンジソウ、ダイモンジソウは有名で、ちょっと標高のある谷などで見かける。名前からして本家筋にあたるユキノシタには彼ら程の関心が払われているようには思われない、可哀想な花だ。
で、やっとジープ道に辿り着き、砂利道、殆ど破損したコンクリートの急斜面の道をボチボチ登る。辺りの梢では鳥が賑やかに鳴く、時に妙な鳴き方をする奴もいて、鳥笛を2・3回、すると笛を真似て鳴き出した。恐らくはオオルリの仕業に違いない。馬鹿にしているのか自身の技を誇っているのか、面白い奴。
下りほどの苦労も無く上り行程の9合目、亀岡方面からのコース出合で元気なおばちゃんが飛び出した。十年振りの地蔵山だと云い、100名山のうち60まで踏破したとも云い、75才だとも云われる。にしてはとてもお元気なご様子、論より証拠、目の前をストック1本で登って行かれる。話は尽きず、名残惜しくもあるが、愛宕山と地蔵山コース分岐で別れた。愛宕界隈を周遊の後、地蔵山へ行くのだから止む終えない。
すっかり笹の消えた旧愛宕スキー場跡でゆっくりして、徐ろに地蔵山を目指す。おばちゃん、いやおばあさんはそろそろ下りかな?。それにしても今日は寒い、下界の真夏日はどうしたろう、ここでは14度、1枚着てちょうど良い。樹冠に遮られた登山道には光は無い。薄暗い馬酔木の葉叢越しに見た東の空は真っ青であった。
やっぱりおばあさんは速かった、でまた捕まった。富士山の山小屋の営業状況はどうであろうと問うのである。関西の低山しか知らない輩に聞いてもね〜、最近登った方の報告があったから、やってるでしょう、と好い加減な事を云った。けしてないがしろにした訳では無く、話す事を何より喜んでおられるご様子のおばあさんに合わせての事なのだ。
開放後、直ぐ目の前の梢でジュウイチが鳴く。とても大きな声で、是非とも姿が見たい。一度だけ見たことはあるが、大峰は七面谷の巨樹の枝先で距離は数十メートル、またとない機会と忍び足、そこへ現れた今日二人目の登山者はおじいさん。こんにちは、と云う間に遠くの梢に行ってしまった。旨く行かない時はこんなもの、、
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