■ 若狭・頭巾山
・・・・2015年05月24日
2015.5.24

この季節の福居集落あたりの長閑さには何時もながら感心する。冷たそうな水の流れる小川、田植の季節を迎え、綺麗に手入れされた田畑、傍を流れる用水の煌き、風に揺れる萌出る新緑、何れも鄙びた日本の原風景といったところか。

汚れの無い川底の石の上に姿を見せた黒っぽいカジカカエル、このカエルの鳴声は今しか聞けない。少し前に手折られた蕨の茎は、無残な傷をより大きく広げたまま成長を遂げ、そうした災難は毎年繰り返される。タニウツギは既に色褪せ、林道を飾るものはひとりヤブデマリだけである。

谷コースと分かれた陽のあたる道に、短くて寸胴で、クサリヘビ科の特徴を余すところなく見せつけるマムシがいた。こいつとは帰りにも、少し降ったところで会うことになった。傍に立っただけでも恐ろしくキツイ顔をされた。クロマムシはそんな顔はしない、居住する標高が少し異なるだけで、そんなにも変わるのは人故であろうか?。

ほぼ完全に崩壊した、近頃はこうした場所が多い、道の端を辿って谷川を渡り、汗を拭きながら風に吹かれて暫しの休息。昨日のものだろう踏み跡が残る。再度谷川を渡って急登が始まる。鉄塔への近道は倒木が塞いだままで、危険を冒して採るべきコースでは無い。谷を詰めると綺麗な林に出る。林床はイワカガミに覆われ、花期を終えた葉の影には、果実を点けた花穂が残っているだろう。

林を抜けた見晴らしの良い尾根から、遠く、芦生あたりの山並へと続き、気温はグンと下がって、汗の滲む身体にはやや寒いほど。若狭に拔ける旧道を通って横尾峠、暗い石室の二体のお地蔵様は、時の推移を如何に思召しているだろう。頭巾山方面には路らしい踏み跡も残っているが、堀越峠方面の明瞭な道型に踏み跡は無い。

中央分水嶺に乗ると直後、林の奥からトラツグミの鳴声が起こり、遠くでこれに呼応する声も聞こえた。所謂妖怪ヌエの声の主だ、こんな真っ昼間に鳴くのは珍しい。トラツグミの鳴声の、日本文化への影響は多大なものがある様に思う、消え入る様な日本幽霊、妖怪等はトラツグミの鳴声が基調では無いかと考えているが、専門家は何と云うだろう。

番だと思われる黒っぽい鳥が梢を行ったり来たり飛び回る、あれがそう?。暫く行った辺りでゲラの親鳥に威嚇された、いつもの事だから気にはしないながら、この辺りに巣があるんだ。帰りには、雛の声で巣の在り処も知れてしまった。親といい子と言い、よく似ている。

分水嶺で一番見晴らしの良い尾根から、日本海に浮かぶ島影等が見え、しかし空と海は同じ色で、島が在るから海であると分かる。更に何度かアップダウンを繰り返し、暑い、無人の頭巾山の祠の前に約1分。少し降った木漏れ日の中で昼食にした。カラスが3羽飛び回り、遠くにアカショウビンを聞きながら、僅かの間に身体が冷える。


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