近頃の地図を見ると、地蔵山直登コースは樒原からピークに達するものだけが記載されていて、越畑から谷川沿いに登り、ピーク北隣の反射板跡地に達するコースは綺麗に忘却されている。いつ頃から今の様になったのかは知らないが、ピークに付き上げるコースは見た事が無い、ネットで調べてみてもそれらしい途は記録に無い。樒原コースも辿った事は一度だけあったが、途中で消失してとても途などとは云えなかった。
越畑までの道程、沿道に咲く、満開の桜の花には今更ながら魅せられる風情がある。殊に、雨に濡れた姿は艶があって、何度かブレーキを踏んでしまった。越畑の桜もほぼ満開で、枝垂れ桜は未だこれから咲く。満開の桜に雨とあっては残念に思われる方々も多かろうが、散策程度なら知らず、傘を差しての山登りほど興醒めでもあるまい。
いつも芦見峠ではマンネリと云われよう、今日は大雨の中、傘を差して、大いに荒れた直登コースを行くのである。もちろん物好きは他にいる筈もなく、スピーカーを点けた選挙カーが見送ってくれるだけ。風はそれなりに強く吹く時もあったが何分にも谷間を行くのだから暫くは何でもない。
気温は10度、谷の水はやや多めで、それにしても途が無い。崩れた川底と散乱した木々、右往左往しながら高度を稼ぎ、息が切れると立ち止って、汗を拭きつつコースを描く。湿っぽいこの谷にはヤマビルは居ない、故に安心して休む。ヤマビルが居るとこうは行かない、芦見谷も例外では無いのだ。
やっとのこと流れる谷を越え、鉄塔に向けて山腹を横切る、この頃から山を揺るがす風の音が轟き、ガスも出始めた。雨の中で、木々も飛べとばかりに吹く風は脅威である。古びた傘はひとたまりもない、新品では勿体無い。鉄塔から上の鉄塔にかけて、物凄い風が拔ける。この辺でよしても良いかな、と何度思った事だろう。直ぐ下の尾根で咲くタムシバも同意であった。
がしかし、思い立って来ているのだから、風の又三郎如きに脅されて引っ込んだのでは情けない。山頂にはお地蔵さんもおられるし、先ずは上の鉄塔までは行かずばなるまい。ガスが流れるとはいえ、展望の良い、第一鉄塔から第二鉄塔まで歩く後ろ姿を見る人があらば何と云われよう?、天晴と云われようか顰蹙を買ったか。
第二鉄塔の側は立って居るのも辛いほどの強風で、飛び込んだところが急斜面の杉の林、残り高度差200m程の登りは当然の如くに突きつけられた格好だ、誰の思召し・・。もう二度とこのコースは登るまい、と呟きつつ、暗い杉の植林地が切れた。そこには、一面の枯葉色の中で、健気に一枚・二枚の葉を出したカタクリがあって、雨の山肌を丹念に探すと、一株・二株、花を覗かせた個体があった。もちろん花は未だ咲いては居ない、今日の天気では尚更だ。
元気を取り戻して反射板跡地に着き、何事も無かった如く、西向き地蔵さんに挨拶した。地蔵さんの涎掛けは新しくなり、ところが近くのカタクリは未だ咲かない。お地蔵さんより先に拝んだ事になってしまった、仏仏仏。風は変わらず強いのだが、雨は小糠雨程度に大人しくなった。水の貯まる登山道に踏み跡は無く、芦見峠からユックリ降ろう。
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