半国山も、宮前から金輪寺参道を辿るだけでは流石に情けないし面白くない。谷川の出合の池の側から別れる道があった。バブル期の残滓だと思っていたが、辿った事はなかった。時々軽トラの出入を確認していたから、何かあるかもしれない。しかし地図では直ぐに途絶えてしまう、心細い道である。
一歩踏み込んだ辺りは、バブル絶頂期の別荘地を想定したような整地が成され、当然今では強靭な雑草と灌木に覆われ、それと知る縁も僅かに残る程度、小さな建屋が2つほどあったが既に廃屋の類だ。
その様な場所まではアスファルトがまだ残っていた。ダートとなった道は、まだ低い尾根の側まで登り、そこから尾根下に延々と続いている。直ぐに途絶えるだろうと思っていたからちょっと嬉しい。植林が消えると非常に明るい道になった。谷川も勢い良く流れ、平野部を満たしていた霧も晴れて陽射しもある。
谷川を超えた辺りから酷い石だらけの道が続き、最後に、まだ低い杉の植林地に出た。踏み跡らしいものは背丈ほどの藪の急斜面に続いている。とてもこれを登る気にはならないので、少し戻ったあたりの尾根に取り付いた。松と檜の混合林といったところで、林床は案外綺麗だが、小枝に残る蜘蛛の巣がいやらしい。
一人落葉を踏みしめて登る静かな斜面に、谷を隔てた向いの尾根でも落葉を踏みしだく音が聞こえた。熊か?、とも思ったが、よく聴くともっと軽い足取りだ。鹿か狸か、何れにしてもあちらでもこちらの様子が分かっている筈だ。そんなところに聞こえてきた銃声、油断をすると我が身が危ない。
檜が切れると明るい、葉を落とした林の斜面が続き、北側に、いつもの尾根が見えだして、まだ大分高度差がある。地図を見るとまだ200メートルは登りが続く。濡れた背中を乾かすべく、ザックを降ろして小休止、谷底の落葉を踏む音がザクザク、鹿だ。笛を吹いたら応えてピー、応答はしたが近づく様子も無く、そのまま谷を這い上がって行った。
休むと身体が冷える、真っ青でしかなかった空に雲が湧き出した。尾根は登るに従い細くなり、茂る樹林の間を抜けるのは一苦労、体を屈めて拔けるのは酷く応える。天に向かって佇立する立派な大岩があった。登って見たが、際立った眺望がある筈もなく、ただ、煩い枝葉が無いのは胸がすく。
Co700の尾根を前にして、斜度は少しも緩むことも無く、これでは下降ルートには使いたくない。落葉に埋まった宮前ルートに乗り、ピーク下の伐採地でランチ休息。あたりを飛び回るオオスズメバチが一匹、どうも越冬場所を探しているように見える。ミズナラの根本を盛んに飛び回り、その辺りに穴でも掘る積りだろうか。流石にこの時期のオオスズメバチには凄みがない。
MTBに跨がった二人の若者が通った。にこやかに挨拶をしてピークへ去って行った。ピークから寡黙な男性が降って行った。何も云わなかった。さて帰りは?、このまま巡視道を降って谷を抜け、赤熊に降りよう。紅葉の渓谷は美しいかもしれない。
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