やや風邪気味の体で、空は黒く窓の外の木の葉は翻り、気温はと見れば10度も無い。雨対策にもつカッパでは、この天気は乗り切れそうにも思えない。つまりは温かな車でグズグズしていたわけで、然しこの秋一番の木枯しだとは聞いてもいたが、ここ迄酷いとは思わなんだ。
見ていると小雨もポツポツ落ちて来て、まだ雫は残ると云うのにこの先が不安だ。昨年のいきなりの豪雨のことも思い出され、ここは一番手っ取り早いコースと決めて、要するに一番慣れた中山谷山最短コースを行く事にした。
このコースは春と秋に趣があって、今頃は赤や黄色や天女の衣や、色鮮やかな紅葉がある。覗いた中山谷山ピーク辺りは既に落葉が進み寒々しい。とは云え傾斜の厳しさが変わる訳もなく、落葉に隠された濡れた枯れ枝の滑る事。
どうやら尾根に乗って見た南の空に、僅かに覗く明るい空、や〜回復傾向、と喜んで見た尾根の先には狂おしいばかりの冬の空。毎年これで騙されている、学習というものがまるで無い。尾根上で何が動いた気配があった、黒ぐろとした土を蹴散らし去ったのは、どうやら熊に間違いない。既に辺りの木の実は食べ尽くして、めぼしい物は殆ど無い。拔ける風も厳しく気温は5度、けして留まる所ではなかろう。
そんな具合で紅葉にも冴えが今ひとつ、光が欲しい。北の空の様子を気にしつつ、葉を落とし、痩せ細った木々の中山谷山ピーク前、黒雲は一気に空を覆い、一際強い風のあと強い雨が来た。昨年と一緒のパターン、燃えるモミジの葉も風に舞い、ところが不思議に地表の落葉はより鮮やかに見えるのだ。
周回を止めて戻るコースに、飴色に光るキノコがあった。も少し大きくなったらまた会おう。山を下り、汚れた靴を洗うべく、降りた河原に吸い付く物があった。寒さに震えるヤマビルだ。動きは緩慢だが、血、すったる〜という意欲に陰りは無い。無論、禍根は絶たねばならず、暗い雨の河原のまことに小さな格闘を演じたのである。
帰り際、北集落に差し掛かった所で、登山姿の数十名のパーティと遭遇した。長々と伸び切った行進ではあったが、主催はどうも美山町らしい、白尾山辺りをやった様で、登山事業にも愈々本格参入するのだろうか。 |