■ 京都北山・中山谷山
・・・・2014年09月21日
2014.9.21

芦生の森も滝谷も、ヤマビルの生息地となって久しい。昨年の事ではあるが、ここ五波谷の河原にも奴らはいたのだ。今年はしかし、あちこちのヤマビルの巣窟でさえ、彼らを見ない事があったらしい。煮えたぎる様な季節が短かった事によるのかはたまた天変地異の前触れか。災害だと困るが単なる冷夏の成せる業ならこれは一重に有り難い。

間伐の進んだ五波谷は随分明るくなった。以前より随分陽射しが差し込むようになり、急斜面の林床も明るく、問題の河原も乾いている。これならヤマビルには居心地が悪いだろう。中山谷山の支尾根取付きはジメジメであったが、間伐材の枝葉で至極歩き易い。お陰でヤマビルの居そうな泥濘を歩かなくて済んだわけだ。

とわいえ草木が無ければ転がり落ちそうな斜度が緩む訳もなく、朝から気分の悪くなるほど心臓がときめくのである。その上蜘蛛の巣が嫌らしい。顔について益があるものなら我慢もしよう、しかしその様な研究結果は聞いた事が無い。蜘蛛の糸は研究テーマとしても面白いと思うのだが如何なものか。

蜘蛛の巣を払いつつ斜度が緩むと綺麗な尾根に出る。気温は15度で、陽射しが無ければかなり心地よい。あちこちの梢にアサギマダラがヒラヒラ、これだけ集まって居るところを見ると、既に渡りの季節である。日本列島を渡って台湾にも渡るとか、独特の、屈託の無い飛び方がこれを可能にするのだ。手に取っても、葉の上に戻すと何事も無かったかの如くに蜜に向かう。正に川の流れの様とはアサギマダラの事である。

感心している間に1番嫌な急斜面、これを越えると広場に出る。嘗ては笹に覆われたところであったが、今では日本庭園の様になった。赤い実を沢山ぶら下げた木があった。寄ってみると随分早く色付いたヤマボウシで非常に大きな実である。点々と樹皮がめくれて先端の枝が折れていた。これは熊の仕業に違いなく、然し爪の跡が随分小さい。

今年はブナの実は不作らしく、越冬の油脂分が心配だ。家に来るならピーナッツでもやっても良いが、大きい奴だと恐ろしい。リンゴの様なウラジロの実もあるにはあるが、まだ熟していない。熊の好きなアオハダに実は無い。多くの樹木の葉はまだ青い。ひとりナツツバキだけが赤く色付いていた。

尾根に乗ってしまえば中山谷山は直ぐである。無人のピークに最近の踏み跡は無い。葉の茂った巨大なブナの木の下は薄暗い。急角度で落ち込む深い谷から太くて背の高い堂々たる風格の樹木が頭を擡げる様子は神々しい。谷の底から湧いてきたアサギマダラは、明るい五波谷に吸込まれて行く。

五波峠に向けて下降、といっても殆ど高度差は無い。峠の手前には立派なブナの林があって、お手軽に深山の散策の出来るところだ。峠の手前で、態度の横柄な猿の群れが谷に消えていった。峠のヤマボウシの実は食べられていた。食べ残しが樹下を覆い、猿の仕業に違いない。熊と比べ、人に近い生き物として、何だか考えさせられる光景であった。


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