去年も行ったお金参り、人臭いと云おうか人の丈と云おうか、どこか惹かれる魅力のある山川で、今週の天気は申し分が無い。銚子ヶ口登山口には数台の車、今年こそは、と期待した愛知川林道のゲート、固く閉ざされつれない風情、側に並んで待つ車列の、何と情けない事であろう。
深窓の山の神へは実力行使こそ効果的だ。ちょっと遠いが橋を渡り、不潔な林の中の光景には目を塞いで、思いのたけを込めたザックをこれみよがしにいそいそと、透き通る水に桜の花びらを、ほどよく浮かべた雅な道に涼風がふく。
三つ葉ツツジの花びらも、触れた途端になよなよと、水の面に散るピンク色。人の無い道の上に、風に靡いて散る花の心地良さ、花の御所などに、思いを致すのも発電所前まで。路肩に頭を出したワラビの多さ、この辺りで、下衆が顔を出すのは仕方が無い。
愛知川を、見下ろす様になって尾根に一際色がある。遠メガネ等で覗くと満開のアカヤシオ、道の側にはまるで見ない、高みの花の典型だ。日差しは暑いが風に冷ややかなものが混じる。愛知川への下降の途中、湧き水は細い。本流の流れもたおやかで、何時もよりも大人しい。
弁当を開くと釣師が二人、格好は十分だが肝心の渓相がこれでは釣果は期待出来まい。白滝谷出合あたりで概ね40センチも浅かった。楽々渡渉、天狗滝の、藍色の水面は砂砂利の色。ただし、この辺りの砂利は真っ白で美しい。
今日はハイカーとは出逢わない、釣師の影は5〜6人、禁じ手の支流にも姿があったがこれはハイクとしておこう。広沢出合まで来ればお金谷は直ぐである。ちょっと早いがテン泊の準備、誰が集めたかちょうど欲しい位の薪があった。辺りに木霊するせせらぎにも負けず、オオルリとミソサザイが賑やかだ。暑い西陽が終わる頃にはほどよくおこる炭の色。
アルコールなど多少嗜み、冷え込む河原の夜は更けた。次に目が覚めたのは既に7時,白い河原に射す陽射し、芳しからざる天気予報を吹き飛ばす、真っ青な空が山の間に覗いていた。
グズグズしたので多少遅い出発、ただジャブジャブ歩くだけの釣師が一人、釣れそうにないですな〜、と苦笑しながら上流に消えた。お金谷に着き、一息入れる間に上方から、オーイ、オーイの声が響く。まさか遭難でもあるまい、など思いつつきつい斜面を這い登る。そこに現れたハイカ一人、涼しげな顔をした男性である。尾根に乗り、ザックを下ろしてお金明神にお参りする間に、下方からオーイ、オーイと響く声。
小首を傾げたくなる事もある、鈴鹿最深部の昼前である。お金峠で大きなザックを背負った若い男性と遭遇した。後で、この出会いを振り返るハプニングが有ろうとは、知る由もない。お金峠を降ると下谷尻谷、変な地名だが尻谷という。
緩やかな谷底ではあるが、周囲は厳しい。北谷尻谷から銚子ヶ口に這い上がって周回するコースだ。コース上、最も標高のある山を最後にした訳は、美味しい物を先に食べ、不味い物を最後に残す、好き嫌いの法則を適用した結果だ。ところがこれは大変に厳しかった。
山の名誉の為に云っておくと、銚子ヶ口ピーク周辺の森は綺麗で、何より鈴鹿山脈の展望が至って良い。が、杠葉尾からは植林地が長々続き、見るべきものが少ない。尻谷からの登りの谷も、清楚な淡いピンクの花を咲かせる、イワウチワの綺麗なコースである。
がしかし、食料が切れエネルギーが切れ、いわゆるシャリバテで通過する事になったから、もうヨロヨロ。辛うじて戻ってきたような有り様、非常食は必ず携行する物であることを、再確認した次第である。 |