山々の高嶺辺りは先週の雪で白い。目の前の、切り株から延びる金色の稲穂、用水の溜まる、ドジョウでもいそうな畦の側の水場に降り注ぐ、柔らかい陽射し、風も温かくて春を思わせる。山々の中腹に雪がある事で、何やら雪国の春めいた様子が感じられる。
幾らか高度を稼ぐと、登山道にも雪が現れ、よく踏まれた辺りはぶ厚い氷となって滑る。降りて来られる方の靴には滑り止めがある。陽射しの無い木陰や山の北側の雪はまだまだ十分な量があって、光に煌めくので大変に眩しい。
風の抜ける辺りは一気に冷える、風さえ避ければ陽射しの中は伸びやかで、昼寝でもしたくなるほど温かい。スニーカーを履いた若者が降りてきて、未だ踏まれない雪面に、気持ち良さそうに足跡を残して行った。よく踏まれた細い途を登ると赤い涎掛けのお地蔵様、行儀良く、雪の上に置かれた煎餅が各1枚。
広い、白い月峰寺境内には踏み跡もなく、踏み跡はやはり細く、行儀の良い方が多かった事に加え、先週は恐らく歩く方がいなかった、と想われる。僅かに、井戸跡までの踏み跡があった。そういえば、名古屋からのバスツアーがあったようだが、既に周回を終えたのか姿が無い。
ピークでは、白い雪と大きな岩と、真っ青な空が美しい。昼を少し過ぎたばかりで他に人の姿が無い。無人のピークから比良辺りの白い山々が見え、先週歩いた半国山のピークばかりが覗いていた。
誰も来ない山頂に、時に冷たい風が吹く。そうした時は、松と岩の間の陽だまりに移る、昼寝も出来そうな陽だまりだ。雪面に、カラスらしい足跡と、テンらしい足跡が、交差する様に残っている。実際に出逢うような事は無さそうだが、想像すると面白い。
横尾山方面に移動すると、空気が数度程も冷たい。雪もまたサラサラして溶けていない。その道をアベックが登ってくる。よほど楽しいのか、道草が長い。踏み跡も確実に減って、代りに、スノーシューの踏み跡等が見られる。スノーシューも相当に沈み、けして楽な様子では無い。
登りでいき違った若者のスニーカーが最も精彩がある。元気が一番見るに値する。とはいえ寒い、この位で降ろうか。最低鞍部辺りから植林地へ降った。栗の林に降り注ぐ陽光は一段と春めいて見えた。
|