永い闘病生活による心身の衰えを憂い、どうにかこの悪循環を断ち切る術は無いものか、内心悶々とする日々を過ごしつつ、甲府の1メートルを超える積雪の報。
関東東北では不測の事態とあって、被害をももたらしたこの雪、関西では大分以前に降った雪は、陽にもよく耐え細々と余命を繋ぐももはや限界。そんな折の降雪である。萎えた身体に鞭打って、せめて二度目の思いがけない僥倖に報いたい。
京都西山あたりは遠目にも白く、行ってみたいところではあるが身が持たぬ。願わくばもっと手短な半国山あたりで雪見が出来たら申し分が無い。歩き始めた林道に雪は無い。むむ!、我が命運も最早これまで!、天を仰ぎ地に伏して、と見た最初の尾根に積もる雪。
多くは無いが、この標高での積雪であれば、この先にはせめて30センチは期待できる。雪質としてはこの温かさ、不平を云ったら罰が当たる。北の風が強く風速は凡そ10メートル,青空から降り注ぐ陽射しの中は温かい。踏み跡一つ無い雪面は有難い。
失念するところであったが、先行者は一人だけあったのだ。小さな四肢を巧みに操り、爪痕までもくっきりと残すテンの類だ。真っ青な糞を残すのは何鳥かも分からぬが、点では踏み跡とは云えまい。
半国山から北東に延びる尾根に乗った。途端に積雪は30センチを軽く越え、北風に舞う雪は、1〜2メートル間隔で、登山道を遮るように、雪の波を作っている。これに近づくと積雪深は1メートル、ピークは更に深くて歩けない。斜面の縁でさえ5〜60センチはあって、低い気温と風に煽られ、汗はそれ程でも無いのだが、引き上げる膝の重い事。
せめてワカンでもあれば助かるのだが、ザックの中にはアイゼンしかない。尾根北側の綺麗な水平道は、積もった雪で痕跡も無い。痕跡はあっても深い雪で歩けない。やはり斜面の縁を七転八倒するのである。転ぶと行っても下方に転べば後が悲惨だ、自由なようでも制約が多い。
ようやく鉄塔のある灌木の林の近く、大岩の前、陽射しもあって風は無い。昼食タイムには絶好のローケーション、昼食の準備が無いので無用ではあったが、勿体無い場所であった。雪が融ければ二度と無い。水平地の落葉樹の林の雪は深かった。重い雪では足を引き抜く力がいる。加えて膝を挙げる力がいる。
尾根では濡れない登山靴も、大地に入って濡れだした。井手コース出合いで今日の日程は終了である。ではあるが、頂上直下の林の様子も気に掛かる。美しく薄化粧した様子を見たいのだ。檜の植林地を抜けピーク直下まで、今日一人目の足跡を見た。大阪側コースで、既に帰ったあとであった。
林には、風を避ける小鳥の声が賑やかで、林の木の何処にも雪は無い。この上ピークに登っても知れている。楽な筈の、帰りのトレース付きの道は、重くて硬い雪で期待した効果が無い。効果の少ないだろう踏み跡を、15時30分を過ぎて辿る、大きなザックのアベックが行く。様子から見て、今晩は山頂近くでテント泊か?。
|