山道を往来する車の轍の音はジャージャー、側を抜ける風は尾根を超えてくる度にゴーゴー山を鳴らして、枝先に溜まる雪の粉を撒き散らしては、道下のレモンの薄黄色い実を揺すぶる。金柑の実はまだ青く、レモンだって充分に熟しているかどうか疑わしい。
薄く溜まった雪の路に足跡を残して、早朝からご苦労をなさる方々は、そうした後にどんな楽しみをお持ちだろうか、一番風呂で、陽の滲む高窓辺りの湯気を見上げて、ぼんやり、贅沢を決め込む算段でもお有りだろうか。
山路に出合う頃には、薄っすら、汗も浮かんで、大量の木の葉に交じった、蹴散らされた雪が混じる、立並ぶ樹木の幹にも、薄っすらと粉雪が付く、時々、脅かす様に、雪の塊が落ちて、ドスンと音を立てる。突然、側の木の間から、奇怪な悲鳴が起こり、風が誘う森の音である。
有難いのかどうか、お経の合唱が風に乗って聴こえ、小尾根一つ隔てた、森の中のざわめきを運んできて、MTBのタイヤ痕が、いやに鮮明に残る、その様な森を歩くと、ヘラヘラ、滑って消えそうな会話が近付き、どうも、ロシヤ人のカップルに違いなく、女性は、血色も良く肥えて、微笑みを湛えて、縋りつく男性の腕は細い。
爽やかな、笑顔を残して、走り登って行った男性の、残したトレースは林の中に続き、降れば、ペラペラの夏タイヤを恐れ気も無く着けた、車の並ぶ森。山鳴りの、轟々轟く小屋の中の、何事にも泰然として、お昼を頂き寛ぐ、御茶を啜る、老若男女の群れ。
せせらぎを越え、三つばかり足跡の残る、雪の着いた、滑るざれ場、雪が付着して奇妙に太る靴、ゼーゼー、汗よりも厳しい急斜面、登ると、小広い広場があって、先行者もウロウロ、続いてウロウロ、息が整う。
さらに登って、真っ黒な空から寄せてくる風、木立を揺るがし、林を鳴らし、雪を舞い上げ、頬を刺し、凍った気を、ぶつけて来る。忽ち気温は4度ばかり下り、風に飛び散る、木立から落ちる、雪の粉がまた舞う。絶え間なく、舞い上がる雪。路の、踏み固められた雪は危険だ。
林に入ると、風は止み、明るく、それだけで暖かい。
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