雨は上がった様で、薄雲の隙間から射す陽射しがありがたい。谷川の水に僅かに濁りがあるくらいで林道は一段と走り易くなった。アシ谷出合いには未だ土砂の堆積が残っている。来年の春頃には綺麗になっているだろう。
五波谷では杉の伐採が大掛かりな規模で進んでいて、重機による搬出用の道の造成があちこちにあるからだ。アシ谷でも同様の作業が考えられる。右岸左岸を這い登る道を見ながら第二の進入禁止の看板前、タバコの間に重機が登った。
今日は休日だが伐採作業があるのだろうか。広からぬ林道をほぼ一杯使ったトラックであった。対向して来たら何処まで後退する事やら。今日もここから登るとしよう。林道沿いにあった秋の草花は既にない。
花は消えたが温かい風が吹く。前線に沿って南下する寒気は何処へ行った。何れ降りてくるのだろうが、今日1日持ってくれたら有難い。尾根に取り付くと雫が落ちる、落ちた雫で木が濡れる、濡れた木はよく滑る。後から見たらまるでピエロだ。
斜度が緩みはじめてカッパを脱いだ。青空は広がる様に見え、風もぬるい。日が射すと暑苦しい。尾根のモミジは綺麗に色付き、葉を付けたタカノツメは少しだけ黄色い鮮やかさが欲しい。地に落ちたウリハダカエデは潤いを醸し出す。
風の抜けるピーク手前の木場では、葉は半分以上は風に飛んで地を埋める。アオハダは赤い実だけが枝先に残る。北の空の怪しい様子、狂おしいばかりに湧き上がり、真ん中辺りは彩りを飲み込む冬の雲がある。
南の空は色彩の混じる明るい雲で、今射した光で山が黄金色に輝く。少し降った枯れ木の中頃に、飴色に光るキノコがある。裏に回ると小さいものもブツブツと顔を出す。一部は刃物の跡があって頭がない。
目の前のヤブの向こうで動物の気配がした。重量感のあった足音は鹿ではない。あの落着いた歩みは猪ではない。熊の生息地で食べ物があり。その上天気は曇りがちだ。カウベルは有難い。が、この程度では駄目な地域もあるらしい、熊に違いがあるとも思えん。
谷底迄は厳しい斜度が続き、山腹を歩いて谷底を伺うと、何処かでパラパラ音がする。カサカサ、木の葉の舞う音に似て、あ〜葉が落ちる音だ。突然山が轟々なって、激しい風が吹き荒れる。途端にパラパラはザーザーに変わり、直後に土砂降りがきた。
谷底迄は直ぐの所で、雨宿りに軒を貸す木もない。山鳴りは激しくなる一方、募る風雨で辺りの秋めいた色彩は直ぐに消えてしまった。谷から這い出し、最短の尾根を駆ける様に降る頭上にシャワー状の雨が叩きつける。
葉を半ば落としたブナの樹幹流はどうして大したものであった。林道に降りる頃には殆どずぶ濡れ、同じくずぶ濡れのハイカーを載せた四駆が横を下って行く。 |