久し振りの雨で車も街も綺麗に洗われ、山もまた潤いを取り戻しつつある。もちろん過ぎたるは八大竜王のご加護に頼らざるを得ないのは天地開闢依頼変わるところがない。
空気に水の他の混じり気が無い。南の空にはまだ濃い灰色の雲が架かり、降り続く地域もあるだろう。山に入ると染み出した水が、僅かな窪地を見つけては貯まり、泡沫の水に浮かんだ森があった。静かな森に、微かな水の流れる音がある。
山際の小さな窪みから湧き出る水は、乾いた林床に集い、落ち葉を流し堂々たる谷川を成して流れる。流れの先には数メートルの滝となり、更に2段の立派な滝となって流れ落ちる。
残念ながら嗜みは無いものの、さわ屋さんなら登ってもみたい程の沢であろう。水もまた澄明である。何時でも細い湧水のあるところは、それでも僅かに流量が増えた。
更に登るともっと大きな池があった。流入する水は多く勢いがある。どこから流れ来るのか辿って見ると、斜面の小さな穴から始まって、やがて木の根の下あたりを通過する頃には、盛んな流れが出来るのである。ブナ林の集めた樹幹流を、一息に放出したような流れである。
夢幻の湖面に映る午後の森、鎮まりかえり、人はおろか鳥も飛ばず、凍り付いたような光景であった。激しい雨後の、現実にはない泡沫の森。雨の最中に現出する事は無く、濡れた身体で見ることもまた不可能である。
大雨に関わりがあろう筈も無く、これを鑑賞するにも蟠りは無い。楽しんだ事は言わずもがな、悲しんだ事も祈った事も無縁である。これを不人情と云うのだろう。 |