大台ケ原駐車場からの出発は、標高も高く、どうも身体が温まらない状態で始めてしまう。腹が減っては戦が出来ぬ道理を持ち出して、誰もいない食堂で、早々とカレーライスを食べてしもうた。尾鷲辻へ歩き始めたのは10時を回る頃で、既に東大台の散策を終えた人たちが帰路に付き始めた頃である。まずまずの天気で空気も旨い。
尾鷲辻の東屋は、一休み中の団体さんが占拠中、出会いから暫くは踏み跡が多く、さてさて近頃はこんな場所にもハイカーが多くなったものかと怪しんだが、暫く歩くと昨日の雨上がりの古道に踏み跡は皆無。はてな、と考えるに、成るほどと頷けるものが見つかった。生理現象で止むを得ず踏み込んだ跡であろう。東屋はあってもトイレがない。
などと想像を逞しくしつつも標高は下がり、かなり強烈な木漏れ日の中は暑いくらい。深い谷に流れ落ちる水の音が清々しく木魂する。堂倉山、山といっても殆ど平坦な森の中にピークがあるだけだが、白崩谷などと云う恐ろしげな深い谷底へ向かって、全てが落ち込んでいるとは思えない程ゆっくりした森が続く。古道には、ところどころ橋の基礎や大岩を削ったようなところが残り、往時を偲ぶ事も出来ようが、大体は崩れて流れて歩き辛い。
堂倉山から南に、盛り上がった山頂を見せるのが地倉山であろう。大地は次第に狭くなり、それでも標高差の殆どない尾根が続いている。満開のシロヤシオが花道を飾ってくれはするが、どれもこれも元気がない。昨日あたりの雨にやられたか風にやられたか。尾根が細くなると、古道は至るところ崩壊し、尾根を歩く方が無難になった。地図上の目印は地倉山とコブシ嶺しかない。
東側にも遠く山並みが続き、一番手前の山並みは、地池高の尾根で、昨年歩いたので記憶に新しい。植林の進んだ山域である。西側には、大台ケ原のテーブルランドが何時までも続き、左端に漸く大蛇グラが見え始めた。それにしても東の川まで恐ろしい標高差を一気に下る斜面は物騒である。汗ばむ顔の周りをブヨがうじゃうじゃ飛び回る。尾鷲辻までは見なかったので、標高差で変化があるものらしい。
小腹が減ったので、目印の地倉山だろうピーク手前でお昼。目の前の東側の山肌は綺麗に伐採されて細い二次林だけがある。大きな地崩れの兆候が山腹を横切り、いずれ大崩壊が起こるらしい。自然林を切り倒し、そのまま放置するとは許せん所業。天網恢恢疎にして漏らさず、何れの日か、天罰を受けるに相違ない。
食事も終わり、あと一息で目的のピークに達する。その前に石楠花のジャングルがある。花は見頃を過ぎたところで、慰めなどにはまるでならない。汗を拭き拭き漸く目的のピークへ。そこが地倉山であるかどうだか、山名プレートもなしまるでわからん。おや、と見た右手が少し高いようで、あるいはあそこがピークであろうか。西に落ち込む尾根まで来て、あっと驚きの声を、あげはしなかったが、それまでの景観が一変したのである。
南に続く尾根筋は、先ほどと同様伐採にあい、露出した尾根の遠望が素晴らしい。白崩谷を隔てる尾根を越えると大台ケ原に代り、屹立するピークが連なる竜口尾根、奥には薄く大峰の尾根が連なる。遥か下方には東の川の流れがある。竜口尾根に切れ込んだ谷は深く、1000m余りの直線で東の川に落ち込む。
地図を広げると、雷峠なる峠も近くにあるらしい。桑畑がある筈もないここらで、雷にあったらそれこそ魂消てしまうのは必定。今日はその恐れも無さそうだし、暫く絶景を背景に風に吹かれるのも良い。NHKのカメラがないのが心残りである。高度差の乏しい台高主稜線も、流石に帰りはなんぼか登らねばならない。さて14時を過ぎて往路をピストン。東の方から雲が沸き始めている。
人影の無くなった夕べの尾鷲辻、カメラの三脚担いだおじいさん一人、今頃何処へいかはるんやろ。17時を回って駐車場、車の数が半端ではない。今日は泊りが多いんやろか、給付金で大台山荘に停まるんやろか。
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