妖怪のたぐいは今でも有るのだろうか?。半国山井手ルートは、谷を越えるあたりは暗くて湿っぽくて、これでヤマビルでもいたら一流の怪しい山域になるだろう。
郵便局裏から深い竹やぶの道が続き、右手斜面には墓場もある。良い雰囲気だと思ったのも束の間、墓の中央から下は空き地になり、ちょっと拍子抜けのするほど明るい。
谷川の水を引いた水場も整い、帰りにはお世話になる予定だ。この先は池のある暗い森、と思ったのは過去の事、枝打ちが終わり下草も綺麗に刈られた森は明るく、谷川を堰き止めて造った大きな池の水は、曇天にも関わらず透明感のある碧である。
ヤブの中の林道も明るく、長虫(青大将)が道いっぱいに伸びていても、魑魅魍魎の棲む泉鏡花の世界に似て来ないのである。ぱらつく雨の中、夏鳥の囀りが谷に響き渡る呑気なお昼であった。
林道終点から谷を越えるあたりは薄暗く、薄きみの悪いところだ。カラスが鳴き、カケスがギャーギャー鳴いて驚かす。ちょっと歩くと再び明るい山腹のジグザグ道。涼しい風が吹き、滴る汗もようやく収まってきた。
乗った尾根も大変明るくて、丸々と肥えたマムシは倒木の側の薄日の日溜まりに伸びていた。植林地に入ると流石に薄暗くなり、整然と生える杉の林は薄気味が悪い。
2次林に入るとまた明るくてなって、結局は人の気配が残る、放置されたものが一番気味の悪いものである事が分かった。魑魅魍魎の正体はこれである。蛇もヤマビルもいい迷惑だ。ヤマビルは妖怪の類で良いか。
帰りに見ると、マムシはやはり同じ場所で伸びていた。呑気なものだ。前方で何やら小さなものの鳴き声がする。林床から聞こえるようだが鹿では無さそう。突然、ヒヨコくらいの鳥が現れて駈け抜けていった。一方では良く解らない小さなものが尾根を降って行くのが見えた。
纏めて見ると、恐らくは山鳥の親子かと思われ、妖怪の類ではなさそうである。どうも妖怪は人里に出没するものらしい。
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