前の車の更に前に、赤色燈を点けたパトカーがいる。この状態は万事休す。見る間に制限速度に低下したまま、信号1つ無い見通しの良い道を、3台の車がノロノロ進む。
長閑な田舎道、でも無さそうだ。前の車がパトカーの真後ろに付けて煽るような行動に出た。え!、ウソ〜、そんなヤツはおらんやろ〜。
時には追い越す様に右に出て煽るのだ。これは厳しい!、まさか、知り合いかな?。とうとう根負けしたパトカーが道を譲った。後ろに付けて付いて来る。先の車は見えなくなった。サイレンが鳴って猛ダッシュ。待っている訳は無いので空振りだろう。
朝から面白いものを見せて貰った。国道に出ると、たった今赤色燈を点けたワンボックスが着いたところだ。今日はスピード控えよう。福居集落の気温は12度、歩くには丁度良い。
新築したばかりの最上流の家の前、背中を曲げたおばあさんは庭にあり、唸りをあげる田植機の上には長男だろう。畦道には奥さんか。
つまり一家総出の田植えである。林道には昨日の雨が流れ、川側の土手には陽射しの中に成長したワラビがある。一部は手折られて間もない。川の流れはごく普通で、雨は多くなかった様子。
気温が急速に上昇するのか林道歩きで汗が出る。一枚脱いでもかなり暑い。林道崩壊地の上で谷川に手を浸けた。山椒魚の幼生は見えず、手は痛いほど冷たい。登山道に入ると風がある。やや冷たくて心地良い。
巡視路を見送ってブナの林へ向かった。尾根が近付くに伴い、林床一面のイワカガミが見事である。青空と黄緑色の森と涼しい風とイワカガミは良く似合う。今年は花が少ない様で、ところが、一株に20を超える花を着けたものもある。
古道の先には横尾峠のお地蔵様、笹がすっかり消えたお陰で、見上げた路の先の雰囲気が良い。中央分水嶺に乗った後は、頭巾山まではただ尾根を歩く。下草は殆ど無い綺麗な広い尾根である。
多少のアップダウンを除けば変化は少ない。変化が少ないので怠くなる。怠くなったら小鳥の声が響く木陰で小休止である。ガスが掛かって日本海の波は見えない、沖を往く船の音は聞こえている。
今日の登山者は他に無い。にもかかわらず明瞭な踏み跡が残っている。笹に代わって増えだした、ハナヒリノキを避けた林の中の新しい踏み跡。
広い明るい尾根の片隅のクリの木、葉の未だでない太い枝先に熊棚が二つ。見回すと辺りの木にも同じように熊棚がある。考えれば、関西における熊密度はここらあたりが一番高い。明るい昼間は案心して良いが、暗い雨模様の日は要注意。
左手の谷底あたりから、喧しく聞こえるのはコマドリだ。川面を移動しながら囀るのであろう。多少、水気のある落ち葉の傍に、産卵の用意のできたシュレーゲルアオガエル。
頭巾山下の肩から厳しい斜面が続く。心臓は破れ無いが陽射しが暑い。未だ満足に葉の出揃った木が少ないので陽射しがキツイ。そばには満開の山桜があった。
無人の山頂の祠の影で、汗を乾かし、ちょうどザックを背負ったところへ名田庄からの登山者が着いた。今日はピストンで帰るとしよう。最後は巡視路を抜けショートカット。ところが、崖に付けられた最後の下り道に大きな倒木があって通れない。
下手に迂回すると谷底まで転げ落ちる危険がある。横に移動、斜度ほどは更に厳しいものの表面が土で柔らかい、落ちても泥だらけで済むだろう崩壊地を慎重に降下。
今日初めての緊張する場面は最後にあった。油断大敵。 |